公開日: 更新日:

「ゼレンスキーの素顔」セルヒー・ルデンコ著 安藤清香訳

 米議会でも演説した昨年の「年男」がウクライナのゼレンスキー大統領。今年もまだ戦争は終わりが見えない。



 邦訳のゼレンスキー本の多くは外国人の書いたもの。本書の著者はウクライナの時事評論家だ。

 いまから4年前の2019年の歳末。ウクライナでは年越し番組のさなかに現職大統領がテレビ演説するのが恒例だった。ところがこのとき、演説したのがゼレンスキー。テレビのコメディーで大統領を演じた男が本気で大統領選出馬を宣言したのだ。これを冗談と受け取った人も少なくなかったらしい。

 しかし、ゼレンスキー側は周到。テレビ討論会でもメディア育ちの技術を徹底活用し、「たかが素人」となめたポロシェンコ大統領(当時)を完膚なきまでにやりこめる。ゼレンスキー自身も新興財閥との関係など政治的な弱みがあったが、主人公が横暴な権力者をこっぴどく懲らしめるドラマの主人公像を現実に活用し、ドラマの党名「国民のしもべ」を実際の党名にもした。

 ゼレンスキーはトランプが現職の米大統領だったとき、ウクライナの新興財閥とのビジネスでとかく噂のあったバイデンの息子を調査するよう圧力をかけられたことで米政界の注目を浴びた。ゼレンスキーが曖昧な対応でしのがず、安倍晋三並みにトランプ寄りの姿勢でいたら、今日の熱烈なアメリカの支援はなかったかもしれないのだ。

(PHP研究所 1980円)

「ゼレンスキーの真実」レジス・ジャンテ、ステファヌ・シオアン著 岩澤雅利訳

 仏マクロン大統領はロシアに弱腰といわれるが、ウクライナ報道ではフランスの記者が目立つ。

 フランスの記者コンビによる本書はテレビ俳優出身のゼレンスキーの指導力をプーチンが見誤っていたことを指摘する。

 しかし、侵攻の口実としたウクライナの「非ナチ化」という文言が、開戦前は支持率38%に過ぎなかったゼレンスキーの闘志に火をつけ、昨年2月24日深夜、彼がロシア語でロシア国民に対して「ウクライナは戦争を求めてはいない。ウクライナは攻撃はしないが、防衛はする。そして立ち向かう」と告げると、支持率は一気に9割を超えたのだ。

 著者によればウクライナの政界は大向こう受けを狙って些事で騒ぎ立てる傾向があり、「テレビドラマじみて見える」ことがよくあるという。

 インターネット時代ならではのイメージ戦略でウクライナ版の「穏健なポピュリズム」を武器とするゼレンスキーのやり方は、まさに今日的なのだ。

(河出書房新社 1540円)

「ヴォロディミル・ゼレンスキー」ギャラガー・フェンウィック著 尾澤和幸訳

 ロシアの侵攻が始まってからウクライナのロシア語読み地名や人名が続々と変わったのは周知のとおり。ゼレンスキーの名前もロシア語なら「ウラジーミル」だ。本書はあえて(今は読みづらい)ウクライナ語の表記を書名に掲げることで持ち味を出している。

 副題の「喜劇役者から司令官になった男」が示すように、ゼレンスキーの前歴にくわしく言及。イギリスの伝説的なお笑い番組「モンティ・パイソン」のファンで、映画「パディントン」のウクライナ語版で主人公の吹き替えも担当した。

 バツイチのさえない高校教師が口走った政治批判を、生徒のイタズラ動画に撮られたことから大統領にされてしまうという喜劇ドラマから本物の大統領になった男。政治経験もないまま一国の元首になり、戦争指導者として世界的に知られた男。

 世界中で米国の評判を下げたトランプとは似て非なる存在だ。

(作品社 1980円)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 4

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 5

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 8

    星野源「ガッキーとの夜の幸せタイム」告白で注目される“デマ騒動”&体調不良説との「因果関係」

  4. 9

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも