著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「わたしは、不法移民」カーラ・コルネホ・ヴィラヴィセンシオ著 池田年穂訳

公開日: 更新日:

「わたしは、不法移民」カーラ・コルネホ・ヴィラヴィセンシオ著 池田年穂訳

 今年6月、わたしは出張の途中でアメリカ南部のヒューストンに立ち寄り、大谷翔平の試合を生観戦した。これ、ほとんど誰にも言ってない話。

 ちょうど入管法改定案の国会審議が大詰めの時期だった。わたしは日本に暮らす難民移民が苦境に立たされる法案に反対していた。その大事なときに「大谷くん見ちゃった」なんてミーハーな自慢話は憚られ封印していた。

 だからヒューストンの思い出も未整理なのだけど、印象深いのはとにかくヒスパニック系の割合が高かったこと。球場でもカフェでもメキシコ移民と話したし、トラムの車内アナウンスは英語とスペイン語だし、メキシカンかテクスメクス料理かわからないおいしいものをいろいろ食べた。ヒスパニックはもはやマイノリティーじゃないのかも、と思ったほどだ。

 しかし本書を読んで打ちのめされた。著者は4歳でアメリカに渡り、非正規滞在者として暮らしたヒスパニック女性。自分の家族と似た境遇の人たちの話を掘り起こした。どのページにも尊厳を奪われて地べたを生きる人の痛みがある。9.11やフリント水質汚染のエピソードも衝撃的だ。

 なにより心を揺さぶるのは著者の(そして訳者の)パンクな筆致。わたしは邦題にある「不法移民」という呼び方を避けたい派(せめて非正規滞在者と言いたい派)。だけど著者は見透かしたように吠えるのだ。

「長年、善良な人びとが不法移民に敬意を払った呼びかたをしようと努力するのを見てきたけれど(中略)もっと不躾に『クレイジー・ファッキン・メキシカン』とでも呼んでくれたほうがまだましだ」

 ヒリヒリして、やばい。

(慶應義塾大学出版会 2640円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  3. 3

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 4

    阪神・大山を“逆シリーズ男”にしたソフトバンクの秘策…開幕前から丸裸、ようやく初安打・初打点

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    創価学会OB長井秀和氏が明かす芸能人チーム「芸術部」の正体…政界、芸能界で蠢く売れっ子たち

  2. 7

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  3. 8

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  4. 9

    大死闘のワールドシリーズにかすむ日本シリーズ「見る気しない」の声続出…日米頂上決戦めぐる彼我の差

  5. 10

    ソフトB柳田悠岐が明かす阪神・佐藤輝明の“最大の武器”…「自分より全然上ですよ」