「線状降水帯」小林文明氏

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「線状降水帯」小林文明著

 最近になって耳にするようになった「線状降水帯」という言葉。

 積乱雲が次々と発生して、列をなした積乱雲の群れが大雨を発生させるというのは知っていても、何がそんなに危険なのかはいまいちピンとこないという読者も多いだろう。

「線状降水帯に危機感を持てないのは、ある意味では自然なことなんです。比較的気象の穏やかだった昭和に育った世代からすれば、想像もつかない極端気象が21世紀を境に起こり始めているからです。記憶に新しい2022年の北九州豪雨や静岡豪雨、そして今年9月の台風第13号による大雨。被害が甚大だったこれらの豪雨の共通点は、線状降水帯です。線状降水帯がもたらす豪雨では、1時間当たり150ミリ近くの降水量を記録することがありますが、これは熱帯雨林とまったく遜色ないレベルの、最強クラスの時間降水量なんです」

 本書は、積乱雲の専門家である著者が、謎に包まれた新たな天災の正体に迫ったチャレンジングな一冊。「気象災害に対する危機感は若いうちこそ育まれる」との信念から「小学生にでも分かるように」と解説し、発生メカニズムをひもといていく。

「台風でも入道雲でも多くの雨をもたらす積乱雲は、『熱』と『水蒸気』をエネルギーにし、発達すると子どもの積乱雲を生んで自己増殖し始めます。線状降水帯もそれらの点は同じですが、前線や地形の影響で一定方向の風が生まれると“線状”の塊になるという点が最大の特徴なんです。そうすると、風下に向かって新しい積乱雲が継続的に運ばれる。だから、降水地域が極めて局所的になり、記録的な豪雨になってしまうんです」

 気象庁は2022年6月に線状降水帯の予測を開始した。天気予報がほとんど外れないほど観測技術が発達したにもかかわらず、なぜ、線状降水帯の観測は特別扱いされているのだろうか。

「エネルギー源の『水蒸気』を観測することが難しいんです。豪雨災害を防ぐためには、すでに降り始めている雲を分析するのでは遅く、雨になる前の水蒸気量を把握することが予測の肝。しかし、水蒸気量の観測は気象観測のなかで最も難しい技術なんですよ。例えて言うなら、水を熱しているフライパンのどこから泡が生まれてくるのか、ピンポイントで当てるようなものです」

 また著者は「豪雨豪雪から身を守る方法」を紹介。住んでいる地域を見直すことの大切さを強調する。

「豪雨被害は山間部という一般的なイメージがあると思いますが都市部も要注意です。実は、地球温暖化とヒートアイランド現象のダブルパンチに見舞われている都市部は積乱雲が急速に発達しやすい。空を眺めていると、まるで都会にゴジラのような化け物が現れたように感じます。11月までは台風シーズンですし、冬には豪雪が頻発しています。また、学校では教えてくれませんが、家の立地の見直しや災害保険の見直しはぜひ皆さんにお勧めしたいですね」

 ほかにも、冬の線状降水帯「JPCZ」の発生メカニズムを写真やデータとともに解説し、「避難用具の中に口紅が1つあるだけで安心する」などの非常時の細やかな対応まで網羅。本書を片手に家族と空を眺めてみてはどうか。

(成山堂書店 1980円)

▽小林文明(こばやし・ふみあき)1961年生まれ。北海道大学大学院理学研究科地球物理学専攻博士後期課程修了。防衛大学校地球海洋学科教授。日本風工学会理事。専門は、メソ気象学、レーダー気象学、大気電気学、研究対象は積乱雲および積乱雲に伴う雨、風、雷。著書に「大気電気学概論」「積乱雲」など。

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