「みんなケンジでご機嫌だべや」土肥美帆著

公開日: 更新日:

「みんなケンジでご機嫌だべや」土肥美帆著

 北海道・小樽の浜辺に暮らすボス猫・ケンジの「ゆるい」日常を撮影した人気写真集の第2弾。

 漁師の家で生まれ育ったケンジは現在8歳。体重8.5キロの巨漢だが、穏やかな性格で無用な喧嘩は避ける「PEACEでLOVEな猫」。

 テリトリーの拡大を図ったケンジは、持ち前のキャラクターを発揮して新しく出会った住人たちからも好待遇を受け、9つもの名前を持つ。

 そして、ブッチャーという名前をつけてくれた家を気に入ったケンジは、その家に上がり込んで暮らし始める。

 悠々自適の暮らしを手に入れたケンジだが、ボス猫業を忘れたわけではない。

 朝、ブッチャー邸でご飯を食べたら、パトロールに出発。西へ東に気の向くまま歩き回り、日に何度か浜へ顔を出してはボス業をこなし、漁師さんから取りたての魚をもらい、そしてブッチャー邸に帰宅後はお気に入りのソファの上で一日の疲れを癒やす。

 そんなケンジの暮らしに密着して、周りの人の気持ちをゆったりと幸せにしてくれる、そのご機嫌パワーの秘密を探りながらページは進む。

 語源が「寝子」といわれるほどよく寝る猫だが、ケンジのご機嫌の秘密のひとつもやはりお昼寝。

 天気のいい日は浜で海風に吹かれながら、ブッチャー邸では魚の玩具を抱えて毛布の中で、時には油断してまるで野生の心得を忘れたかのように、あおむけになってなんとも気持ちよさそうに眠っている。

 かと思えば、積もった新雪の上を涼しい顔で散歩したり巨体をものともせず「華麗な」ジャンプを見せたり、デッキに前脚をかけてなにやら語りだしそうなオヤジ風のケンジをはじめ、仲間とともにいる姿や物陰からおっかなびっくり顔でのぞく姿など、どのケンジもいとおしい。

 そんなケンジを見ていると、ささいなことでイライラしたり悩んだりしている自分がバカらしくなる。きっと周囲の人たちも、そんなケンジの包容力に癒やされ、心が軽くなるから、ついつい声をかけたくなるのだろう。

 北海道の冬は厳しい。ケンジのテリトリーの浜とブッチャー邸のある住宅街も雪によって分断されてしまう。

 暖かい室内でぬくぬくと暮らすケンジを見て、運動不足やテリトリーのボスの座を失うことを心配したブッチャー邸の「お父さん」は冬の間、車でケンジを浜の漁師さんのところまで送り、帰りは漁師さんがブッチャー邸まで車で送り届けるようになったという。まるで重役出勤だ。

 そうまで人々に愛されるケンジ。地域に幸せをもたらす一匹の猫が、写真を通して今や遠く離れた、まだ会ったこともない人たちの心も和ませる。

 きっと本人、いや本猫はそうと知らずに今日もひょうひょうとパトロールを楽しみ、お気に入りのスポットでお昼寝をしていることだろう。

(河出書房新社 1595円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2
    大谷2戦連続6号弾 先輩の雄星も驚く「鈍感力」発揮!名門球団の重圧や水原問題もどこ吹く風

    大谷2戦連続6号弾 先輩の雄星も驚く「鈍感力」発揮!名門球団の重圧や水原問題もどこ吹く風

  3. 3
    長渕剛が誹謗中傷に《具合が悪い》と告白…《話があるなら、来てほしい》と性被害告発の元女優に呼びかけ

    長渕剛が誹謗中傷に《具合が悪い》と告白…《話があるなら、来てほしい》と性被害告発の元女優に呼びかけ

  4. 4
    松本人志に文春と和解の噂も、振り上げた拳は下ろせるか? 告発女性の素性がSNSで暴露され…

    松本人志に文春と和解の噂も、振り上げた拳は下ろせるか? 告発女性の素性がSNSで暴露され…

  5. 5
    松本人志“性的トラブル報道”へのコメント 優木まおみが称賛され、指原莉乃が叩かれるワケ

    松本人志“性的トラブル報道”へのコメント 優木まおみが称賛され、指原莉乃が叩かれるワケ

  1. 6
    広末涼子“不倫ラブレター”の「きもちくしてくれて」がヤリ玉に…《一応早稲田だよな?》

    広末涼子“不倫ラブレター”の「きもちくしてくれて」がヤリ玉に…《一応早稲田だよな?》

  2. 7
    佐々木朗希にメジャー球団は前のめりも…ロッテ首脳陣が依然として計算できない脆弱ボディー

    佐々木朗希にメジャー球団は前のめりも…ロッテ首脳陣が依然として計算できない脆弱ボディー

  3. 8
    巨人の得点圏打率.186は12球団最低…チャンスに滅法弱く、立場が危うくなった打者3人の名前

    巨人の得点圏打率.186は12球団最低…チャンスに滅法弱く、立場が危うくなった打者3人の名前

  4. 9
    阪神・岡田監督ようやく取材解禁の舞台裏 もう怖いものなし?今後の報道に忖度生じる可能性

    阪神・岡田監督ようやく取材解禁の舞台裏 もう怖いものなし?今後の報道に忖度生じる可能性

  5. 10
    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異

    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異