著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「アートで楽しむサウナぎつねのフィンランド巡り」ピヴェ・トイヴォネン著

公開日: 更新日:

 ガイドブックとしては、ずいぶん不思議なつくりである。紹介されているのはフィンランドに実在する60以上のサウナ。ごく控えめに(本文より小さな文字で)サウナの名が記され、あとは美しい水彩画と数行の印象的な散文で構成されている。住所も営業時間も載っていないのが、じつに潔い。

 著者はヘルシンキ在住のアーティスト。これまでに400軒以上のサウナで汗を流してきた無類のサウナ好きだ。本書のサウナ絵に必ず登場してくるオレンジ色のきつねは著者自身の姿なんだとか。

 絵の中で、裸のきつねはのっそりとサウナベンチに寝転がっている。あるときはスモークサウナの闇の中で両膝を抱えて座り、またあるときは湖のほとりでサウナ後のビールを飲んでいる。いつも目を細めて「いま」を味わうきつね。なんて愛おしいんだろう。

 旅先で入る公衆浴場ほどワクワクするものはない。女湯で繰り広げられる、おばちゃんたちのリラックスしたおしゃべりにまさる旅情なし。東北でも九州でも、はたまた韓国のチムジルバンやイランのハマームであっても、おしゃべりのトーンは変わらない。世界はお風呂の湯気でつながっている気がしてくる。

 10年前に数日だけヘルシンキを一人旅したときも、いそいそとサウナを目指した。本書にも出てくる老舗の公衆サウナで、黒ずんだ壁もストーブの脇に積まれた薪もなんともいい風情だった。

 読み終えて、いつか必ずフィンランドを再訪して湖や海のサウナに入ろうと決意した。この本は画集で散文集で、同時にすばらしいガイドブックなのだった。だってこんなに旅心がうずく。

(アルソス 2860円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  3. 3

    気温50度の灼熱キャンプなのに「寒い」…中村武志さんは「死ぬかもしれん」と言った 

  4. 4

    U18日本代表がパナマ撃破で決勝進出!やっぱり横浜高はスゴかった

  5. 5

    坂口健太郎に永野芽郁との「過去の交際」発覚…“好感度俳優”イメージダウン避けられず

  1. 6

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  2. 7

    板野友美からますます遠ざかる“野球選手の良妻”イメージ…豪華自宅とセレブ妻ぶり猛烈アピール

  3. 8

    日本ハム・レイエスはどれだけ打っても「メジャー復帰絶望」のワケ

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景