「MAGNUM MAGNUM 増補改訂版」ブリジット・ラルディノワ編 小林美香、ヤナガワ智予訳

公開日: 更新日:

「MAGNUM MAGNUM 増補改訂版」ブリジット・ラルディノワ編 小林美香、ヤナガワ智予訳

 ロバート・キャパやアンリ・カルティエ=ブレッソンら著名な写真家4人によって1947年に設立された伝説的な写真家集団マグナム・フォト。その創設75周年を記念して出版された写真集。

「4人がそれぞれ互いの写真を編集する」という創設時の共同プロセスにならい、所属写真家が別のメンバーの6作品を選び批評し、その選択理由について解説するという構成。世界中で20万部以上を売り上げた2007年の60周年版の出版後、新たにマグナム・フォトに加わった25人分が追加された増補改訂版で、88人の所属写真家の533作品を集成。A4変型判の全728ページで厚さ6センチという大きさもさることながら、重さ約4キロという本欄で扱った書籍史上これまでにない豪華本だ。

 久保田博二氏は、1986年に終身在職権を得た唯一の日本人正会員。

 1975年のサイゴン陥落を目撃し、アジアに再注目。1979年から、経済発展前の中国を1000日かけてめぐり20万点以上の写真を撮り、写真集や展覧会で発表するなど精力的に活動を続けてきた。

 その折に撮影した京劇の化粧室などとともに収められているのがミャンマーの仏教の聖地「ゴールデン・ロック」をテーマにした作品だ。

 岩山の山頂、切り立った岩壁に金色に輝く巨石が今にも落ちそうな絶妙なバランスを保って鎮座している。その岩の巨大さを引き立てるかのようにオレンジ色の僧衣をまとった僧たちが岩に向かって祈りを捧げている。

 実は巨石の上には高さ7メートルのパゴダ(仏塔)が建てられているのだが、そこをあえて画面からはぶくことで、厳粛な祈りの時間の緊張感が伝わってくる。

 絵画のように隅々まで計算し尽くされたその作品に対峙すると、時間を忘れ、いつまでも見ていたくなる。

 ほかにも、2017年のイラクで独立住民投票前に大規模集会のためにスタジアムに集まった人々を象徴的に撮影した作品(エミン・オーズマン撮影)や、ポーランド・ワルシャワでの人工中絶禁止法抗議デモに参加した女性の顔のアップなどを活写。2020年、南アフリカ・ヨハネスブルクでロックダウン中、停電に抗議するデモ後、投石が転がるゴーストタウンのような道路で倒れた電柱に寝そべる男性など、世界各地で起きている出来事や文化、問題を記録・発信してきたマグナム・フォトの真骨頂ともいえる作品が並ぶ。

 証言者として、時代に伴走し、変化する写真の役目を自らに問い続けながら、写真表現のあらゆる可能性を追求してきた彼らの作品は、同時代を生きる我々にさまざまなインスピレーションを与えてくれる。写真に携わる人にとっては貴重な教科書ともいえるだろう。 

(青幻舎 2万2000円)

【連載】GRAPHIC

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    侍ジャパンに日韓戦への出場辞退相次ぐワケ…「今後さらに増える」の見立てまで

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  4. 4

    “新コメ大臣”鈴木憲和農相が早くも大炎上! 37万トン減産決定で生産者と消費者の分断加速

  5. 5

    侍J井端監督が仕掛ける巨人・岡本和真への「恩の取り立て」…メジャー組でも“代表選出”の深謀遠慮

  1. 6

    巨人が助っ人左腕ケイ争奪戦に殴り込み…メジャー含む“四つ巴”のマネーゲーム勃発へ

  2. 7

    藤川阪神で加速する恐怖政治…2コーチの退団、異動は“ケンカ別れ”だった

  3. 8

    支持率8割超でも選挙に勝てない「高市バブル」の落とし穴…保守王国の首長選で大差ボロ負けの異常事態

  4. 9

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 10

    和田アキ子が明かした「57年間給料制」の内訳と若手タレントたちが仰天した“特別待遇”列伝