「鳥と港」佐原ひかり著

公開日: 更新日:

「鳥と港」佐原ひかり著

 大学院卒の春指みなとは25歳。入社したものの、日報のまとめや意識改革に関わる上面の言葉をまとめ続ける業務に意味を見いだせず、9カ月で退職。1カ月後、みなとは立ち寄った公園で草むらに埋もれた郵便箱を見つける。中には手紙が入っており、返事を書いたことから“あすか”さんと文通が始まった。何通かの手紙のやりとりの後、みなとは郵便箱の前で少年と出会う。彼こそがみなとの文通相手、不登校の高校2年生、森本飛鳥だった。

 年齢差がありながらも、2人にはどこか通じるものがあり、やがて自分たちをつないだ文通を仕事にしようと、クラウドファンディングに挑戦する。飛鳥の父親で人気作家の実が宣伝に一役買ったことで、文通屋「鳥と港」はメディアにも注目され、申し込みが殺到。しかし当初の理想から徐々にズレていく日々にみなとは苛立ち、飛鳥を傷つける言葉を吐いてしまう……。

「手紙」を軸に、不器用な2人が、時に心通わせ、時にぶつかりながら前へ進んでいく姿をさまざまなエピソードを交えながら描く。彼らに共通するのは「言葉」へのこだわりだ。自分の思いを伝え、相手の言葉に耳を傾け、心の裡を推しはかる。タイパ重視の現代において、改めてコミュニケーションが人との関係の礎であることに気付かされる。

(小学館 1870円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」