「ひとつの祖国」貫井徳郎著

公開日: 更新日:

「ひとつの祖国」貫井徳郎著

 物語の舞台は、第2次世界大戦後にソ連と米国に分割統治された過去を持つ日本。経済力をつけた西日本と、経済的停滞に陥った東日本は、ドイツでベルリンの壁が崩壊したのを契機に統一されたが、格差は埋まらない。東日本人は安価な労働力として使われ、東日本人が西日本人並みの生活を送る唯一の手段は自衛隊に入ることだった。

 東日本出身の一条昇と、西日本出身の辺見公佑が出会ったきっかけも、一条と辺見の父親が自衛隊員だったから。2人の友情は大人になってからも続いていた。しかし、ある日、一条が職場の友人に誘われてある集会に出かけたことをきっかけに、東日本の独立を目指すテロ組織MASAKADOに関わらざるを得なくなり、テロを起こした犯人に疑われて追われる身となってしまう。信じられない気持ちのまま、辺見は一条の行方を捜すのだが……。

 分割統治された歴史を持つ日本という架空の設定ながら、経済格差や基地問題など現代日本の社会問題を取り上げた意欲作。良い社会をつくるためにどうするべきなのか、模索する人々の葛藤と混乱がリアルに描かれている。

(朝日新聞出版 2090円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  3. 3

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 4

    阪神・大山を“逆シリーズ男”にしたソフトバンクの秘策…開幕前から丸裸、ようやく初安打・初打点

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    創価学会OB長井秀和氏が明かす芸能人チーム「芸術部」の正体…政界、芸能界で蠢く売れっ子たち

  2. 7

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  3. 8

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  4. 9

    大死闘のワールドシリーズにかすむ日本シリーズ「見る気しない」の声続出…日米頂上決戦めぐる彼我の差

  5. 10

    ソフトB柳田悠岐が明かす阪神・佐藤輝明の“最大の武器”…「自分より全然上ですよ」