「ひとつの祖国」貫井徳郎著

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「ひとつの祖国」貫井徳郎著

 物語の舞台は、第2次世界大戦後にソ連と米国に分割統治された過去を持つ日本。経済力をつけた西日本と、経済的停滞に陥った東日本は、ドイツでベルリンの壁が崩壊したのを契機に統一されたが、格差は埋まらない。東日本人は安価な労働力として使われ、東日本人が西日本人並みの生活を送る唯一の手段は自衛隊に入ることだった。

 東日本出身の一条昇と、西日本出身の辺見公佑が出会ったきっかけも、一条と辺見の父親が自衛隊員だったから。2人の友情は大人になってからも続いていた。しかし、ある日、一条が職場の友人に誘われてある集会に出かけたことをきっかけに、東日本の独立を目指すテロ組織MASAKADOに関わらざるを得なくなり、テロを起こした犯人に疑われて追われる身となってしまう。信じられない気持ちのまま、辺見は一条の行方を捜すのだが……。

 分割統治された歴史を持つ日本という架空の設定ながら、経済格差や基地問題など現代日本の社会問題を取り上げた意欲作。良い社会をつくるためにどうするべきなのか、模索する人々の葛藤と混乱がリアルに描かれている。

(朝日新聞出版 2090円)

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