「西村典子画集 空想街雑貨店の世界」西村典子・西村祐紀著

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「西村典子画集 空想街雑貨店の世界」西村典子・西村祐紀著

 空想街雑貨店とは、吉祥寺と横浜に店舗を構える実在のお店の名前。そこでは姉妹ユニットの姉・典子さんが描いた空想の街の絵をもとに、妹・祐紀さんがデザインした雑貨が販売されている。

 店の大切なモチーフである、その空想の街の絵を編んだ作品集。

「空の街」と題された冒頭の章では、空に浮かぶさまざまな空想の街が描かれた作品が紹介される。

 そのひとつ「空飛ぶ魚の街」は、魚の形をした巨大な飛行船のような物体全体が街になっており、空を飛んでいる。飛行する「街」はひとつだけではないようで、同じように魚の形をした「隣街」が離れて浮かんでいる。

 飛行体は、内部に街があるだけでなく、上部には発電施設のような大きなリングを備えた塔や工場を思わせるような建物が並ぶ。下部には、木造船のような形をした付属物体がつり下げられ、その上にも大小の家が並んでいる。

 魚の頭部分には、チョウチンアンコウのように照明器具が備えられており、街の行き先を照らす。さらにその空飛ぶ魚の街の下にも、地面なのか、別の飛行体の上部なのか分からないが空想の街が広がっている。

 夜空にこんな街が出現したら……温かみのあるタッチの作品に刺激され、読者の空想の翼も広がるはず。

 ほかにも、月の力を借りて発展してきた「月の文明」や、雪の結晶を作る職人が住んでいる「クリスタルスノー神殿」、古の時代から空を泳ぐ「古都クジラと雲の文明」など、趣向の異なるさまざまな空に浮かぶ街。そのひとつひとつに物語があり、読者の心でその物語の続きが始まる。

 続く「夜の街」の章では、夜の世界に一層の輝きを増す街々が描かれる。

 そのひとつ、「星降る夜の街」はあの「銀河鉄道の夜」にインスピレーションを得て、銀河のお祭りの街をイメージして描いた作品だという。

 さまざまな表情をしたのっぽな建物が肩を寄せ合うように隙間なく水辺に並び、その青く輝く水面は建物からこぼれ落ちた明かりを反射してきらきらと輝く。

 やや緑がかった夜空には星が瞬き、とんがり屋根の上に地球ゴマのような物体が乗っていたり、建物の屋上と屋上をつなぐように張られたロープには、銀河鉄道の夜の物語に登場するような豆電球の明かりがともり、まさにお祭りがいま、始まろうとしている。

 以降、「海の」「森の」「大地の」「食べ物の」街が次々と登場。中には、魔法使いの部屋や海洋学者の部屋など空想の街の中にある空想の部屋なども描かれ、画家の空想は尽きることなく、空想から次なる新たな空想が生まれていく。

 見る人によって、きっとさまざまな発見があり、子どもや親しい人とともに手にすれば、さらに読書の楽しみが広がることだろう。

 (玄光社 3300円)

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