「大阪幻想作品集」東京幻想著

公開日: 更新日:

「大阪幻想作品集」東京幻想著

 最近の、国を率いる指導者たちの自分勝手な言動に接していると、本書に描かれている世界が空想で終わらずに、近い将来、現実になるかもしれないと思えてくる。

 廃虚イラストの第一人者が、関西のさまざまな風景を廃虚化して描いた作品集である。

 道頓堀の繁華街は、激しい嵐が通り過ぎたかのように荒廃。飲食店の看板はあちらこちらで崩れ落ち、あの巨大なカニのオブジェも、内臓がむき出しになったように、腹から機械が露出して無惨な姿となっている。

 空は不気味な雲で厚く覆われ、死の灰を思わせるほこりが堆積した路上には「くいだおれ太郎」が背負っていた大太鼓が転がっている。

「あべのハルカス」一帯は、水に覆われ、そびえたつ摩天楼は繁殖した植物によって浸食されつつある。あちらこちらでビルが傾き、今にも崩れ落ちそうだ。そのビルの合間を野鳥たちが悠々と飛び回り、水と空の青さから、空気が澄み切っていることがわかる。

 大阪城はダメージを受けながらも、その威容は変わらず、周囲は満開の桜に彩られている。しかし、背後のビル群は往時の見る影もなく崩壊が著しく、対照的だ。風に乗った桜の花びらが、画面全体に舞っており、どこかさわやかな春の日を思わせるが、人の気配はどこにもなく、きっと聞こえてくるのは風の音だけだろう。

 梅田の書店のショーウインドーに掲げられた街頭ビジョンには異変を伝える「大阪に何が起きたのか!?」というニュース速報の文字が残っており、大阪一帯で何かが起きたことは間違いない。

「えびす橋」のたもとから見るミナミの街もゴーストタウン化している。何かが起きてからそう時間が経過していないのか、まだ街は往時の面影を残してはいるが、あの両手を掲げたグリコの看板は、輪郭だけを残して消え、橋の真ん中で、この世界に残されたくいだおれ太郎が寂しそうに川面をのぞいている。

 あまりの大阪の街の変わり果てた姿に悲愴な気分になってくるが、それぞれの作品の余白に、このくいだおれ太郎をモチーフにしたコミカルなイラストが添えられ、読者の心を和ませてくれる。

 例えば、道頓堀川に投げ込まれたカーネル・サンダース像を太郎が釣り上げたところが描かれて、阪神ファンなら思わずニヤリとすることだろう。

 以降、新世界(表紙)や、関西国際空港、京セラドーム大阪、さらには京都や兵庫の人気スポットまで、関西の人々以外にもお馴染みの風景が廃虚となって描かれる。

 せめてもの救いは、この世界に人はいないけれども、さまざまな生き物は存在していることだ。

 また果てしない進化を経て人間が現れるのか、それともこのまま人間以外の生き物たちの楽園となっていくのか、それは神のみぞ知るところだろう。

(芸術新聞社 2970円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    映画「国宝」ブームに水を差す歌舞伎界の醜聞…人間国宝の孫が“極秘妻”に凄絶DV

  2. 2

    「時代と寝た男」加納典明(22)撮影した女性500人のうち450人と関係を持ったのは本当ですか?「それは…」

  3. 3

    輸入米3万トン前倒し入札にコメ農家から悲鳴…新米の時期とモロかぶり米価下落の恐れ

  4. 4

    くら寿司への迷惑行為 16歳少年の“悪ふざけ”が招くとてつもない代償

  5. 5

    “やらかし俳優”吉沢亮にはやはりプロの底力あり 映画「国宝」の演技一発で挽回

  1. 6

    参院選で公明党候補“全員落選”危機の衝撃!「公明新聞」異例すぎる選挙分析の読み解き方

  2. 7

    「愛子天皇待望論」を引き出す内親王のカリスマ性…皇室史に詳しい宗教学者・島田裕巳氏が分析

  3. 8

    TOKIO解散劇のウラでリーダー城島茂の「キナ臭い話」に再注目も真相は闇の中へ…

  4. 9

    松岡&城島の謝罪で乗り切り? 国分太一コンプラ違反「説明責任」放棄と「核心に触れない」メディアを識者バッサリ

  5. 10

    慶大医学部を辞退して東大理Ⅰに進んだ菊川怜の受け身な半生…高校は国内最難関の桜蔭卒