梶よう子「艶化粧」を語る 6作家が豪華競作 1カ月読み切り時代小説連載直前インタビュー

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 12月4日から6人の作家が江戸を舞台に活躍する女職人を描く1カ月読み切りの連載小説「江戸おんな職人手控」がスタートする。第1弾は化粧師(けわいし)を主人公に据えた、梶よう子氏の「艶化粧」だ。

 ◇  ◇  ◇

 主人公は江戸の新鳥越町二丁目の通称「とむらい屋」で働くおちえ。本作は颯太を主人公にする「とむらい屋颯太」シリーズのスピンオフで、とむらい屋のヒロイン・おちえにスポットを当てた物語だ。

「おちえが働く『とむらい屋』は、今でいう葬儀屋さんです。江戸時代に葬儀全般を扱う商売はなかったのですが、枕飾りや四本幡など葬儀の品物を貸し出す、葬具屋という商売はあったんですね。葬送はどんな時代にもあったわけですから、葬具屋に葬儀屋の役割を取り入れたらどうだろう、と思ったのが執筆のきっかけでした。今は死は見てはいけないもの、のような扱いですが、本来、生と死はひと続きです。とむらい屋を舞台に、死を扱いながら生を描いてみようと思ったんです」

 おちえは16歳。11歳で母親を亡くしたとき、母親の顔に化粧をしてくれたのがとむらい屋の颯太だった。身寄りのないおちえは「とむらい屋になる」と、颯太のところに居座るようになり、やがて化粧師となる。

 ある日、おちえは労咳で亡くなった遊女に死化粧を施すため吉原を訪れていた。目立つ白髪には炭を擦りつけてごまかし、乾いた肌に白粉を塗っていくが、時間が経つと浮いてしまう──。

 そこへ花魁が訪ねてきて、「死んだ人がほんに最期に見せたい顔をぬしさんは考えないとね」というのだった。

「おちえの仕事は、今でいう納棺師に近いですね。おちえも最初は死体が怖かったんですが、次第にきれいにしてあげよう、という気持ちになっていきます。それは、おちえに死化粧で美しくなった母親を気持ちよく送り出せた過去があるからです。当時、死者にどの程度、化粧を施したかは分かりませんが、湯灌など亡骸を清め、旅立たせることは古くから行われてきました。亡くなった人を悼むことは人間だからこそで、仏様をただ土葬しておしまい、ではなかったはずです。弔いは、死んだ者のためにやるのではなく、遺された者のため、悲しみにケリをつけるための儀式だと、作中で颯太に語らせていますが、それは現代も変わりません。弔いは誰のためかをテーマに、今作では死と化粧を組み合わせた物語に仕上げました」

 ある日、おちえはとむらい屋に出入りする馴染みの坊主・道俊に留守を頼み、猿若町へ人に会いに出掛けることに。相手は、おちえの唯一の友達で化粧品を扱う角屋の娘、お民だ。ところが、出掛ける間際に南町奉行所の同心、韮崎宗十郎と、医師の巧重三郎が現れて、先々月から立て続けに若い娘が5人、そして今朝方にひとり、死んだという。いずれも殺められた形跡はないが、娘たちに共通するのは顔に痣があったこと、そして紺色の袋を持っていたことだと。そこへ、お民が姿を消した、との知らせが飛び込んでくる。

化粧に絡む死の謎を化粧師おちえがひもとく

「江戸時代に『都風俗化粧伝』という化粧のハウツー本があって、そこには朝化粧の仕方から、目をパッチリ見せる方法、花見用の化粧まで、すごく細かく解説してあるんです。本作の中のおちえやお民が化粧を施す場面は、この読本に準じた化粧法。江戸時代にも、メーク情報があって、みなが夢中になっていたというのは、面白いと思いましたね。その一方で、今では絶対に使用しないものもありますね。化粧品の原材料になるのは植物などが多いのですが、トリカブトとか蝙蝠の黒焼きとか。魔術かって感じですけど」

 化粧という江戸の風俗を縦糸に、生者を華やかにするための化粧を施すお民と、死者を送るために施すおちえとが横糸を織り成す今作。化粧に絡む謎をおちえが中心となって、ひもといていく。

「江戸時代、女性の職業は限られていましたし、働くこと自体も今よりずっと難しかったと思います。今回、さまざまな女職人の物語が紡がれるわけですが、私も楽しみにしています」

 個性が異なる6人の作家による「女職人」を中心とした月替わりの連作短編。どうぞお楽しみに。

▽梶よう子(かじ・ようこ) 東京都生まれ。2008年「一朝の夢」で松本清張賞受賞。16年「ヨイ豊」で直木賞候補、歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。23年「広重ぶるう」で新田次郎賞受賞。著書ほか多数。

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