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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

books & place LAMP(日野)英国風クラシカルな空間に店主おすすめの600冊

公開日: 更新日:

 閑静な住宅地だ。緑いっぱいの庭に抱かれたヨーロッパ風の建物が目をひく。庭に分け入ると、ドアの前に「本と居場所 2Fへどうぞ」と小さな案内板。香り高きコーヒーを供するカフェが1階にあり、重厚な階段を上がる。階上の一室が「LAMP」という名の本屋さんだ。

 と言っても、普通の本屋さんを想像していくと、意表をつかれる。約45平方メートルもの広々とした中に、本は600冊弱。むしろ主役はアンティークのテーブルが置かれたクラシカルな空間かも、と思えてくる。

「(建物の)オーナーが、イギリスから木材を運んできて、300年前のイギリスの建築様式で建てたんです。2階を貸そうとしてらっしゃると聞いて手を挙げました。4月にオープンしたばかりです」

 そう話すLAMP店主のたけだひろえさん(45)は元中学の英語教員。教育委員会に異動後、「朝7時出勤、夜11時退勤」を続け、心身の健康を害した。当時5歳だった子どもへも悪影響を及ぼした。「人生後半戦は、家族との暮らしを優先し、好きなことをしたい」。その「好きなこと」が、本屋さん開業だったのは、「原田マハの『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』など、落ち込んだとき、本に助けられてきたから」と。

店のコンセプトは「疲れて、一休みして、また一歩を踏み出す背中を押す」

 イギリスの文豪が使っていたような机の上に並んだ20冊に、まず目がいく。帯が紫の「不機嫌を飼いならそう」、水色の「彼女たちに守られてきた」、緑色の「さみしくてごめん」……。

「色目で並べています(笑)。本屋についての知識がないので」と言う一方で、「店のコンセプトは、『疲れて、一休みして、また一歩を踏み出す背中を押す』。なので、生き方、働き方に関わる、読みやすい哲学の本ですね」と。

 たけださんは、並ぶ本を「子」と表現。「8~9割の子」は自身が読了済みだそう。なので、「読後感が猛烈によかったのは?」と聞くと、「ラメ活──見切りをつけて自分を解放する、頑張りすぎずに諦める活動についてのエッセー」として「今日も、ちゃ舞台の上でおどる」、「時間がほしい人に、5分単位で売るおじさんの話」として翻訳絵本「じかん屋テンペリア」。素早い返事だった。

 教え子も元同僚、ママ友もやってくる。1階のカフェの常連も足を延ばす。日野在住の作家も自著を手に顔を出す。「みんなの居場所」となりつつある。

わたしの推し本

「カフェ・スノードーム」石井睦美・文 杉本さなえ・絵

「普段は目に留まらないのに、困ったことがあってこの場所を必要とする人には見つけることができるのが、街角にある『カフェ・スノードーム』。そこには、タマルさんというおばさんの店主がいて、悩みを抱えた人が立ち直るまで寄り添ってくれる。そんなお話です。LAMPも、そういう店になりたいんです」

 160ページ。小学校高学年から。美しい文と絵でつづられたファンタジー。

アリス館 1650円)

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