誠光社(京都・河原町丸太町)京都の独立系書店の草分け
三条や四条の繁華街から歩ける距離なのに、路肩にお地蔵様があったりするエリア。京都の独立系書店の草分け「誠光社」は、京町家をリノベーションして設けられ、ちょうど10年になる。
「アクセスがいいけれど、目立たない場所がいい、と思ったんですね」と店主・堀部篤史さんが話し始めてくれたのは、1969年のアメリカ映画「ジョンとメリー」のポスターを見ながら店内に入り、「航海記」「旅は老母とともに」「わたしは小学生」などが並ぶ平台の前で。
堀部さんは、テーマを“編集”する棚の先駆で、本屋好きの聖地と言われる恵文社一乗寺店の元店長。「人文、社会、アートなどが好きなスタッフたちに選書を任せるなど、恵文社一乗寺店では自由に実験させてもらいました」と振り返る。
やがて120坪の店を成り立たせるため、経営上雑貨などにも力を入れざるを得ないジレンマ。「分母(人件費など基礎経費)を小さくすれば、本とカルチャーだけで店をやれるかも」との思いに。20坪、家族経営のこの店は、堀部さんにとって、2度目の「実験」店舗なのだ。
社会、人文から建築まで、店主堀部さんの“1次審査”を通過した本が約1万冊
そういえば、店内をまじまじと見渡すと、本以外のものが非常に少ない。潔い! 推定1万冊。小取次と出版社との直取引により、ほとんどを「腹をくくって」買い取りで仕入れているそうで、「テーマ的には?」の質問に、「社会、人文、文芸、民芸・工芸、民俗学、建築……。バラバラですね」と笑いつつ、「紙の本である必要のない実用書、専門的すぎるアカデミアの本を置かず、その間」とのこと。
ふーむ。ジャンル不問に、いわば堀部さんの“1次審査”に通過した本ばかり。この日、私に「もうひとつの朝 佐藤泰志初期作品集」と「虚栄の市 汚れた土地 冬の神話 小林信彦初期長篇集成」が刺さったのはなぜだろう。「生活と音楽 三田村管打団?『旅行/キネンジロー』」「口笛のはなし」も。
普段のジャンル以外の本に興味をそそられる不思議、と同行カメラマンにささやくと、うなずきつつ、「妻がこの店のファンで、買ってきてと頼まれていたので」と、店の最奥に並ぶ保育社カラーブックス(古本)を3冊握っていた。
「店名は、大正~昭和初期にこの近くにあった『西川誠光堂』という古本屋から、お借りしてます」と堀部さん。ぐっときた。
◆京都市上京区中町通丸太町上ル俵屋町437/℡075・708・8340/京都市バス河原町丸太町停留所から徒歩1分、京阪神宮丸太町駅から徒歩3分/午前10時~午後8時、無休(12月31日~1月3日除く)
ウチから出した本
「アウト・オブ・民藝」軸原ヨウスケ、中村裕太著 誠光社発行
「個人的につきあいがある中で、『このテーマで書いてほしい』と思う人の本を自社レーベルで10冊以上刊行していて、そのうちの1冊です。民芸の世界の価値観って、柳宗悦が亡くなってから、更新されていないですよね。例えば野球のボールやジーンズなども民芸じゃないか。その線引きってなんだろうと、デザイナーと研究者が語り合った本です」
すでに6刷、7000部を超えた。



















