「コイモ」小熊香奈子著

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「コイモ」小熊香奈子著

 コイモは、日本画家の著者の家で飼われる雌のキジトラ猫の名前。7年前、親とはぐれ、溝の中で鳴いていたところを保護され、著者に引き取られた。

「コイモ」と名付けられたのは、保護されたときに、泥だらけで掘りたての里芋そっくりだったから。

 アトリエで創作に打ち込む著者の傍らで、のびのびと過ごすコイモの気ままなしぐさや姿に惹かれるようになり、何げなく、スケッチで描きとめていくうちに、それはいつしか「コイモとの日々を描きつづった作品」となっていったという。本書はそうして描かれたコイモをモチーフにした日本画の作品集。

「佳き日」と題された作品は、緑色のセーターを着た飼い主(もしくは家族)に抱っこされ、ご満悦のドヤ顔を見せるコイモがなんとも愛らしい。

 保護された生後3カ月当時、コイモは猫風邪を患い、体もガリガリで、獣医さんの指導通り、お腹いっぱいに食べさせていたら、今度はお腹が丸々と膨らんできて、猫を初めて飼う著者は病気ではないかと慌てて獣医さんに駆け込んだほどだという。

 そんな痛々しい昔の姿が連想できぬほど、作品で抱かれるコイモは、丸々として、毛並みもつややか、飼い猫身分を満喫しているのがよくわかる。

 コイモの大好物は焼き魚。「ハンティング」という作品では、食卓にご飯とともに並んだ焼き鮭を物欲しげに見つめる瞳がなんともいじらしく、かわいい。

 かと思えば「おめかし」と題された作品では、鏡に映る自分を見つめている姿が描かれている。

 背後には、ブラッシングした後の毛がついたブラシが描き加えられており、本人はブラッシングが嫌いなのか、なんだか不満顔である。

 れんげ草が咲く春の庭で伸びをするコイモを描いた「れんげ猫」、お気に入りの爪とぎボウルに収まってそのふちにあごを乗せてくつろぐ「あごのせ」、暖かそうな敷物の上で丸くなって眠る「冬至」など、愛猫との日常を通して、特別なことは起きないが、かけがえのない日々が描かれる。

 花瓶が倒れ、水がこぼれ、生けてある花が散った横で身を縮めるコイモが目で何かを訴える「おれじゃない」と題された作品や、どこかケガでもしたのかエリザベスカラーをはめられて納得できない顔した姿を描く「猫にエリザベス」など、表情も一作ごとに変わり、エリザベスカラーの作品では、納得できない顔ながら、その目からはその不安げな気持ちまで読み取れる。

 作品はすべてスケッチをもとに描かれたもので、著者は創作に写真は用いていないという。

 事実、巻末にはコイモの写真も数葉添えられているのだが、冒頭の「佳き日」のように抱き上げられ満足すると、コイモはなぜか虚無顔となり、作品とは全く異なる表情となっている。

 きっと著者は、飼い主にしかわからない愛猫の気持ちまでをも作品に描き込んでいるに違いない。

(辰巳出版 1980円)

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