家族?他人?夫婦にまつわる文庫本特集
「夫妻集」小野寺史宜著
結婚相手は、最も身近な家族でありながら、かつては他人。相手のすべてを分かっているつもりだが、実は知らないことも多い。どうしたらもっと分かり合えるのか、それともそもそも分かり合えないのか。結婚とは、夫婦とは何かについて考えさせてくれる小説を今週は選んでみた。
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「夫妻集」小野寺史宜著
休日、会社で人事部長を務める滝郎は、妻の和香とあれこれと想像をめぐらしていた。27歳の娘・楓が交際中の恋人を紹介したいと自宅に連れてくるのだ。しかし、楓が連れてきた悠は、お笑い芸人と俳優の両立を目指し、今はユーチューバーとしてほそぼそと生活費を稼ぐ、滝郎の想像の斜め上をいく男だった。滝郎は、悠の話し方から考え方まですべてが気に入らない。
和香も同じ感想かと思っていたら、彼の帰宅後、滝郎は和香から悠に対する態度をいさめられる。彼女は彼が気に入ったらしく、滝郎の彼に対する態度が「正直、わたし、いやだった」と言われる。以来、滝郎は妻と娘との関係に溝ができてしまう。
ほかにも、新婚早々に妻の結麻が名古屋に転勤してしまった道哉夫妻、夫の厚久が突然仕事を辞めて沖縄で植木職人になると言い出した梓乃夫妻、8歳年下の幹人と子連れで再婚した美奈夫妻。パートナーが大手出版社で働く4組の夫婦を描く連作集。
(講談社 847円)
「かくも甘き果実」モニク・トゥルン著、吉田恭子訳
「かくも甘き果実」モニク・トゥルン著、吉田恭子訳
小泉八雲(パトリシア・ラフカディオ・ハーン)の生涯を、3人の女性の視点で描く伝記小説。
母のローザ・アントニア・カシマチ(1823~82年)は、イオニア諸島チェリゴ島の出身で、島に駐屯中の英国陸軍医・チャールズと恋に落ちる。しかし、家族に反対され、サンタマウラ島に駆け落ちして結婚。長男は生後間もなく亡くなり、次男のパトリシアが生まれる。
ローザは八雲の評伝を執筆するために訪ねてきたエリザベス・ビスランドに、自らの生い立ちから夫との出会い、パトリシアを伴ってのダブリンでの生活を語って聞かせる。
以降、八雲が新聞記者として働いていた米国シンシナティの下宿先の女中で最初の妻となるアリシア・フォーリー(1853年ころ~1913年)と2番目の妻小泉セツ(1868~1932年)の3人が、愛する息子・夫を思い出しながら語る言葉から文豪の生涯が浮かび上がる。
(集英社 1265円)
「結婚共犯者」櫻いいよ著
「結婚共犯者」櫻いいよ著
純生と麻琴の結婚披露宴が神戸のホテルで催される。麻琴の会社の先輩・薫子も後輩の榊原と参列。未婚の榊原は結婚に多くの夢を抱いているようだが、結婚して12年が経つ薫子は、いまだになぜ自分が夫に匡臣を選んだのか不思議に思う。匡臣はこれまで薫子が好きになった男とは対極にいる、無害で無難な男だった。彼は薫子を一生大事にすると誓い、事実その通りにしているが、彼が一番大切なのは母親だった。結婚も母親を安心させるためで、薫子もそれは承知している。だから薫子は、結婚後もいろいろな男たちに恋心を抱き、今の相手はジムのトレーナーの坂上だ。(「ふたりは誰にも誓わない」)
ほかにも、長年交際中の彼女がいたのにたった1回の浮気の相手とできちゃった婚をした純生の友人・角田や、純生の養父の英次朗、不仲な英次朗の弟夫婦の15歳の娘・律花など、披露宴に招待された客それぞれの状況を描き結婚と愛について問いかける連作短編集。
(光文社 858円)
「神前酔狂宴」古谷田奈月著
「神前酔狂宴」古谷田奈月著
18歳の浜野は、結婚式場の高堂会館でアルバイトを始める。明治神宮に社殿を構える高堂神社に併設された会館だ。披露宴の給仕や進行を担う浜野は、なんで大人は結婚を披露したがるのか、不思議でならなかった。それほどすべてが不自然で滑稽だからだ。しかし、働き始めて半年、虚飾の限りを尽くすこと、それが結婚披露宴の本質なのだと確信。以来、浜野は新郎新婦の愚かしさ、披露宴の滑稽さを限界にまで高めることを目指し、全力で働くようになった。やがて、同僚の梶もこの喜劇に加わる。
高堂神社に対になるように椚神社があり、椚会館も存在。椚のスタッフが高堂の親族控室を担当することになっている。
椚さんと呼ばれる彼らは動きが鈍く戦場のような職場で目障りでならない。しかし、先輩スタッフによると神社同士の話し合いで派遣されてきており、椚さんには丁寧に接するのがルールになっている。
第41回野間文芸新人賞受賞の「披露宴」小説。
(河出書房新社 1045円)



















