戦争を終わらせる

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「戦争犯罪と闘う」赤根智子著

 ウクライナ、ガザ、イラン。次から次に起こる戦争を終わらせるには。

  ◇  ◇  ◇

「戦争犯罪と闘う」赤根智子著

 ウクライナ侵攻とパレスチナ・ガザへの非人道的な攻撃。事態を重く見てプーチンとネタニヤフに戦争犯罪の逮捕状を発付したのが国際刑事裁判所(ICC)。本書の著者はその所長を務める日本の法律家だ。発付の時点では著者は所長ではなく判事だったが、発付を検討する立場だったのを根に持ったロシアは著者を指名手配した。

 そればかりではない。イスラエル寄りの姿勢が露骨なトランプ米大統領は、ネタニヤフらへのICCによる逮捕状発行に反発。ICCの4人の裁判官に対して制裁を科すと宣言した。もし制裁がおこなわれるとICCの全職員の持つ米国内の資産凍結、米国への渡航禁止、米企業との取引禁止のほか近親者や代理人、ICCの捜査に協力した者にまで何らかの制裁を加えると脅しをかけているのだ。

 本書はこうした情勢下でICC所長を務める著者が国際刑事司法とその組織についてわかりやすく解説しつつ、高校時代に漠然と弁護士をめざすところから女性の法曹家として一家をなすまでの自分史をも披露する。東京にICCの事務所を開設する夢を語る終章まで、一気に読ませる国際司法の虎に翼。

(文藝春秋 1045円)

「だれが戦争の後片付けをするのか」越智萌著

「だれが戦争の後片付けをするのか」越智萌著

 国際刑事司法とはジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略犯罪という4つの「中核犯罪」について責任のある個人を罰する制度だ。それゆえ戦争を命じた独裁者は、国際刑事司法の名において逮捕状が発行される。

 しかし国際刑事司法は単に罰する(報復的司法)だけではない。戦争は必ず亀裂や傷や悲しみを残す。それをどのようにして共同体全体の「和解」へと導くことができるのか。こうして「修復的正義」やその根幹となる賠償の枠組みに関する国際法もしだいに整備されてきた。これが本書のいう「戦争の後片付け」だ。

 本書はこの国際刑事司法を専門とする次世代の中堅法学者による入門書。戦争犯罪の捜査に始まり、戦争犯罪裁判、前書で触れたICCによる捜査や逮捕状発行、さらに兵士の帰還や戦争犯罪の被害者に対する賠償と和解など広い範囲にわたる国際刑事司法の現在地をわかりやすく解説する。独裁者をきどる異形の米大統領が国際舞台を引っかき回す今日、まさに読まれるべき一冊。

(筑摩書房 1012円)

「戦争と法」永井幸寿著

「戦争と法」永井幸寿著

 東アジア有事の可能性が大声で叫ばれる今日、一般市民が考えるべきことはなにか。それは有事の際にどんな法的しくみが国民を守ってくれるのかということだ。裏返せばどんな法が市民の自由を規制するのか、ということでもある。

 たとえば「緊急事態」はよく聞く単語だが、実は法的な定義はない。また南海トラフ地震などを想定した災害法制は具体的な状況を想定した諸条件があるが、戦争の際に国民の生命・身体・財産を守る国民保護法制には外国からどんな武力攻撃がなされ、どのような被害が発生し、どの程度の人的・経済的損害が出るのかはまったく想定されてない。

 本書の著者は現役弁護士。日本弁護士連合会では災害復興支援委員会のメンバーでもあることから、日本が戦争に巻き込まれた際に起こり得る状況を過去の事例やその他から多角的に考察する。たとえば日本は世界唯一の核兵器被爆国だが、国民保護基本方針は核兵器や化学兵器などの攻撃を機械的に定義するだけで、市民の命や暮らしに起こることの可能性や対処については一言も触れてないのだ。それは有事の際、法律に言及がないことで役所が事態を放置するかもしれないということではないだろうか。

(岩波書店 1166円)

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