「フィジカルAIの衝撃『身体をもった人工知能』は2030年の世界をどう変えるか」田中道昭著/朝日新聞出版(選者:中川淳一郎)
フィジカルAIはブルーカラーの仕事も奪うのか、人間は何をすべきなのか
「フィジカルAIの衝撃『身体をもった人工知能』は2030年の世界をどう変えるか」田中道昭著
AIですらよく分からんのに今度は「フィジカルAI」だと! どーいうこっちゃ!と怒りたくなる人もいるかもしれないが、まぁまぁ冷静に。現在のAIは知りたいことを質問すると優しく答えてくれる、といったイメージがあるだろう。あくまでも画面の中で働いてくれているわけだが、現実世界でAIが動いてくれることがフィジカルAIだ。
それこそ自動運転、作業用ロボット、果てはファミレスに置いてあるネコ型配膳ロボもそうである。本書では、テスラや現代自動車が工場をフィジカルAI化し、世界の覇権を取ろうとするさまも解説される。「学習する工場」の誕生である。これは、一般的な店舗にも適用され、最も適切な客の動線や棚の配置もAIが考えることが可能だ。
本書で筆者は2030年の世界を描いているが、現在のAIの進化と半導体への資金流入の多さを考えるとあながち夢物語ではないと考えられる。
テスラの工場についての記述はこうだ。
〈イーロン・マスクは「Factory is the product(工場こそが製品)」と語ったが、このとき、重要なのは「競争の単位が変わる」という点である。従来は「どんなクルマを作るか」で競争していた。しかし、これからは「どんな工場を持つか」で競争の優劣が決まる〉
工場がフィジカルAIを導入する以前の“製品競争”と導入後の“製造競争”ではこう違うという。
〈“製造競争”の世界では「どれだけ早くモデルチェンジできるか」「どれだけ低コストで製造ラインを立ち上げられるか」「どれだけ止まらずに回せるか」など──すなわち“速度と柔軟性と出力”の総量──が差別化の要因となる。ここで勝てば、製品側の競争の結果は後からついてくる。だからマスクは、クルマよりも工場を進化させるほうが10倍効果的だと言い切る〉
マスクのような天才の考えることはよくわからん、とフィジカルAIの概念を切り捨てることは簡単だが、AIの優秀さについては将棋でプロ棋士が歯が立たなかったことを考えてもナメてはいけない。
さらに昨今「ホワイトカラーがAIに仕事を取って代わられる」という話になった。フィジカルAIはブルーカラーですら仕事をAIに奪われる可能性を描く。ヒューマノイドが現場に現れると、人間は〈判断、調整、責任、価値の決定といった、より抽象度の高い役割へと重心を移すことになる〉とのことで、要は人間にしかできないことをいま一度考え、あなたはそこに専念して生産性・品質を上げましょう、ということだ。
AI時代を過度に恐れないでいいことを理解させてくれる一冊である。
★★半



















