ひみつの本屋(熱海)商店街の路地で見つけた鍵を借りて入る無人本屋
熱海駅を降りると、まるで渋谷。人があふれていたが、坂を下るにつれ、町は落ち着いていく。「熱海銀座商店街」に到着。中ほどの路地に「ひみつの本屋」はあった。窓から本が並ぶクラシカルな部屋がのぞけ、案の定、「何? ここ」とのぞき込むカップルがいた。
店内に入るには、まずネットで510円の入場チケットを買わなければならない。大丈夫、私はちゃんと買ってきた。そのチケットを、近くのゲストハウスで見せて鍵を借り(スナックなどほか7店舗でも借りられる)、自分で鍵を開けて入る仕組みの無人本屋さんだ。
4畳半ほどの薄暗い空間。青みがかった黒の壁を背景に、古今東西の小説やエッセー、建築・アート、街歩き、児童書などが約1500冊ずらり。古本も新本も。アンティークなシャンデリアなどがそれらを照らし、書斎机も置かれている。
「筋書きのない旅で偶然出会う曲がり角のような場所になれば」
「見知らぬ物語の一室に入り込んだみたい」と思わず言うと、この日、立ち会ってくださった店主はにっこり。「筋書きのない旅で偶然出会う、曲がり角のような場所になればと思って」と。
休館した映画館「ロマンス座」のチケット売り場だったそう。店主は建築家。隣のホステル「ロマンス座カド」を設計した縁で、企画担当だった妻と共に2021年6月に開いた。お決まりのコース歩きが主流の熱海観光に新風を吹き込んだのだ。
並ぶ本の多くは夫妻の蔵書で、唯一のルールは「仕事とお金の本は置かない」。
私など、旅先のノリで宮脇俊三や芦原伸に手がのびた後、気づけば田中小実昌、田山花袋へと時代を遡っている不思議。そして、見慣れぬ色鮮やかなビニールカバーの本も発見。黄色い「月夜とめがね」(小川未明)と緑の「風博士」(坂口安吾)、ピンクの「恋」(渡辺温)。
「いずれも、のぼせすぎない長さの物語です。こういう変な色の本を読んでいる温泉の風景をつくりたいんです」と。耐水性合成紙を用い、自分たちで作った。そう、湯船につかって読めるのだ。1つ、買おう!
月間50~60組が利用。本代は店内の料金箱へ。だいたいの人が1冊以上買っている。店主は、月に1度、トランクケース2つ分の本を持って、都内から補充に来る。
◆静岡県熱海市銀座町8-13 ロマンス座1階/JR熱海駅から徒歩13分、またはバス5分/24時間営業、無休
ウチの推し本
「深夜特急2 マレー半島・シンガポール」沢木耕太郎著 新潮社刊 古本売値600円
「予定調和ではない旅の面白さを味わえる一冊です。列車やバスを乗り継ぎ、思いがけない人や場所に出会って胸を躍らせる。日常のすぐ横に別の世界が口を開けていることを教えてくれる名著ですよね。熱海を旅する人にも自分だけの曲がり角に出会ってほしい。『ひみつの本屋』と重なる思いで、この本を推します。文庫本もいいですが、ぜひ単行本で」
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