相馬に残る馬文化を描くと同時に、「震災後の被災者の日常」に向き合った「野馬追で会いましょう」星野博美氏
「野馬追で会いましょう」星野博美氏
福島県相馬地方で行われる「相馬野馬追」は、平将門が野馬を敵兵に見立てて軍事演習をしたことに始まるとされ、1000年以上続いている。甲冑姿の騎馬武者たちが練り歩く「お行列」、御神旗を奪い合う「神旗争奪戦」などが名物行事。人と馬が織りなす勇壮な祭りで、毎年7月(2024年からは5月)に行われる。
モンゴルやスペインなど世界各地の馬のいる場所を訪ね、「人と馬の文化」を取材テーマとしてきた著者が、相馬野馬追を知ったのは、3.11後だったという。
「相馬地方は津波と原発事故で、人も馬も甚大な被害を受け、人だけでなく、祭りに参加する馬も多くが被災しました。それでも、わずか4カ月後に開催されるという報道を耳にしたんです。土地の人たちが、いかに心のよりどころにしているか、だと思いました。ずっと行きたかったんですが、被災地を訪ねることに引け目があって延ばし延ばしになっていた。コロナ禍を経て21年に再開され、一念発起して訪ねました」
21年はコロナ対策のため、参加グループも出し物も大幅に縮小しての開催となり、「お行列」の出陣は2カ所からだった。一方の列は、相馬藩主家の現当主の長男が総大将を務め、メディアに注目されたが、著者が行ったのは、浪江町を行くもう一方の列。
行列に追いつくため裏道を走っていたとき、空き地が多いことに気づき、そこが被災地である現実を見せつけられた。
本書は野馬追の紹介本ではない。相馬に残る馬文化を描くと同時に、「震災後の被災者の日常」という重いテーマに向き合ったノンフィクションだ。
「ギャラリーも地元の人がほとんどで、和気あいあいとした雰囲気でしたが、荒ぶった一頭が武者を振り落とし、ダッシュで逃げるというハプニングが起きました。騒然とする中、端のほうに静かに立つ馬がいて、凛とした高校生の女の子が乗っている姿に心惹かれたんです。彼女に声をかけたのをきっかけに、彼女が属す『平本家』の浪江町内の陣屋に伺え、平本家の人たちと話すことができ、驚きの連続でした」
陣屋は、テント張りだった。元は平本家の当主・平本さんの家が立っていた場所だが、避難しているうちに家の傷みがあまりに激しくなり、解体した。平本さんは福島県郡山市に住んでいる。
その日、平本家からは6騎が出た。武者は、平本さんを含む成人男性4人に、先述の女子高校生と小学生の男の子。その6人全員が、南相馬市や栃木県那須などに避難し、帰還できていない人だった。馬丁、食事作り担当などサポートする人たちの多くも同様で、東京や神奈川県から来た人も。
「馬も、です。かつて浪江町では祭りのために馬を飼う人が少なくなかったそうですが、震災で大打撃を受けた。平本家から出陣した馬のほとんどは、那須に避難した厩舎から借り受けたものだったんですね。浪江町では、17年に避難指示が解除されたものの、現在も9割以上の町民が戻っていないのが現実なんです。故郷を離れた人々が、それぞれの地で新たな暮らしを築きながら、年に1度の野馬追に浪江町に戻り、集っていた──。胸がいっぱいになりました」
江戸時代は藩主の主催だったが、明治以降は神社が主催。戦前は勇壮さが戦意高揚に用いられた。戦後はGHQに待ったをかけられた。本書はそんな歴史にも言及。野馬追という祭りを通して、日本社会の“見えていない場所”を照らし出している。
(集英社 1210円)



















