「流星と桜」青谷真未氏「娘に疑念を持たれるお父さん、何がいけなかったかといえば、言葉が足りなかった」
「流星と桜」青谷真未氏
名門女子高時代の先輩と後輩が探偵と助手役になり、歌舞伎の演目に見立てて人の心の謎を解くという、ユニークな探偵物語。「廓文章」「八百屋お七」「野崎村」など、歌舞伎の名作の登場人物と、探偵事務所にやってくる依頼人の心情がどこか重なる。著者は歌舞伎ファンに違いないと思ったら……。
「歌舞伎はまったく知らなかったんです。まず、どういう演目があるのかから調べて、使えそうな話をどうにか見つけました。もう大変で、泣きそうでした(笑)」
そもそものプロットは、男装の麗人のような女性探偵と日本人形のような新米助手の凸凹コンビが、夫婦や親子の問題を解決していくというマンガチックなイメージだった。
「先輩が男装しているのは歌舞伎の家の生まれだから。後輩が着物を着ているのは呉服屋の娘だから。そんな軽いノリで10代の女の子に楽しく読んでもらう。そこが出発点だったんです」
というわけで、物語は全寮制の女子高から始まる。梨園の名家の一人娘・清香は生徒たちの憧れの的。真昼でも流星のように光を放っている。一方、高校から編入してきた桜子は、学校にも部活の茶道部にもなじめない。清香だけが孤独な桜子を見つめ、そばにいてくれた。
8年ぶりに偶然再会したとき、清香先輩は探偵になっていた。白いシャツ、黒のパンツ、黒髪はショートカット、まぶしいくらいさっそうとしている。桜子は家業の呉服屋を手伝いながら親の勧める見合い結婚を考えていた。そんな桜子に社会勉強をさせようと、清香は助手に雇う。
さまざまな依頼人がやってきた。誰かに後をつけられていると怖がる歌舞伎好きのマダム。娘と疎遠になったことを悩む単身赴任の父親。女だという理由で歌舞伎役者になれなかった清香の複雑な気持ちもわかってくる。
「桜子は自分に自信がなくて、人の好意に鈍感です。底に穴が開いた花瓶みたいで、人の思いを受け止められない。清香がその穴を塞ぐ手助けをしてくれて、桜子は少しずつ成長していきます。物語がだんだん深まっていって、最初のイメージとは違ったものになりました。なんか、いい話になったなあ、と(笑)」
実は桜子は、無口で頑固な父親にずっとある疑念を抱いていた。自分で真偽を確かめようと、清香とともに父の生まれ故郷を訪れる。
「桜子の父親像には、私の父親がかなり影響を及ぼしているかもしれません。何を考えているのか分からないし、何でも勝手に決めてしまう。桜子は何も話してくれないお父さんのことを調べまくります。娘に疑念を持たれ、探偵されてしまうお父さん、何がいけなかったかといえば、言葉が足りなかったんですよね」
たどりついた父の姿は、歌舞伎「籠釣瓶花街酔醒」の主人公、不器用な田舎商人の一途さに重なった。
歌舞伎、着物、茶道といった伝統の香りをまとって描かれるのは、切なくて可愛くてキラキラしたGL(ガールズラブ)の世界、そして家族間の微妙な心のミステリー。世のお父さんたちは、妻や娘の心の中をのぞき見たようで、ちょっとドキドキするかもしれない。 (東京創元社 2310円)
▽青谷真未(あおや・まみ) 2012年、「花の魔女」で第2回ポプラ社小説新人賞・特別賞を受賞し、「鹿乃江さんの左手」と改題してデビュー。主な著作に「ショパンの心臓」「君の嘘と、やさしい死神」「アンドロイドの恋なんて、おとぎ話みたいってあなたは笑う?」「もうヒグラシの声は聞こえない」「読書嫌いのための図書室案内」「ステイ! ぼくとシェパードの5カ月の戦い」などがある。



















