手紙から読み解く幕末庶民女性の生涯「将軍の都の客人 越後の寺娘・常野、江戸を訪う」エイミー・スタンリー著 原直史監訳 石垣賀子訳
「将軍の都の客人 越後の寺娘・常野、江戸を訪う」エイミー・スタンリー著 原直史監訳 石垣賀子訳
著者は子どもの頃から日本に興味を持ち、日本語を学ぶために大学に進む。当初は平安時代の女房文学について研究しようと思っていたが、指導教官から日本の近世は膨大な史料が残っているので、当時の市井の人々とその暮らしぶりがわかると言われる。そこで出合ったのが、新潟県石神村の浄土真宗林泉寺で歴代の住職が書き継ぎ、保存してきた「林泉寺文書」だ。寺や宗門に関する記録などに交じって当家の常野という娘の手紙があり、それを読んだ著者は一気に引き込まれる。本書は、常野と親族たちの間で交わされた手紙を読み解きながら、幕末に生きた一人の女性の波乱の生涯を描いていく。
常野が生まれたのは1804年。8人きょうだいの長女。当時の娘として読み書き裁縫を習いながら、まだ見ぬ江戸への憧れを募らせていた。13歳で隣国、出羽の大石田村の由緒ある寺へ嫁ぎ、当地で寺の嫁として暮らすが、子どもができなかったこともあり28歳で離縁、実家に戻る。ほどなく次の縁談が決まり農家に嫁ぐが、こちらも長続きせず出戻る。
このどん底から這い上がるべく、常野は思い切って江戸へ行くことを決意。兄たちには温泉へ行くと嘘をついて江戸を目指す。ところが途中で連れの男にだまされて無一文状態で江戸へたどり着く。下女などをしながら生きていき、ある男と結婚して一息つけたと思ったのも束の間、男はヒモのようなぐうたらでまたまた離縁……。
こうした常野の行状に、実家の兄たちは戸惑いや憤りを隠さず、何度も絶縁を言い渡す。それに対して常野は臆することなく兄たちの無理解を責め、当時の女性としては珍しい真っすぐな思いを手紙に託していく。本書は英語圏の読者向けに書かれているため、地理・風俗に関して丁寧な説明が施され、また当時の世界情勢も踏まえるなどグローバルな視点が組み込まれ、ユニークな近世庶民史・女性史になっている。 〈狸〉
(みすず書房 3740円)



















