第12話:計画的略奪
さすがに、今回の件に関しては前話(第11話)のように郵便局長が来社し「穏便にお願いします」と頭を下げるようなこともなく、即座に警察へ連絡したようだ。
1週間も経たないうちに曽根刑事より連絡が入った。
犯人を逮捕したので必要書類の記入のために訪問したいとのことだ。
翌日、清楚なスーツを上品に着こなす上場企業の美人OLのような曽根刑事の来訪を受けた。
犯人は神谷怜司34歳。最近、職を失っていたという。
神谷は換金のために商品を都内の質屋に持ち込んだ。
高級時計は、同じモデルであってもシリアルナンバーによって個体が特定される。
後日の照会により、質屋に持ち込まれたデイトナのシリアルナンバーが、私が曽根刑事に伝えた番号と合致した。
質屋側も、盗難品であることが判明した時点で正直に対応したようである。
古物商は買い取りの際、相手の身元確認を行う。
時計が見つかれば、持ち込んだ人間にもたどり着く。
空き部屋を使った受け取りの場面設定までは用意周到だったが、換金方法はあまりにも無防備だった。
先立つものが必要となっていた焦りがあったのだろう。
神谷はあえなく御用となった。
海外に「飛ばす」などの特殊なルートがない限り、神谷のような素人の場合には瞬く間に足が付く。素人が手を出すべき犯罪ではない。
玄人を認めるつもりではないが、素人の犯罪は安易で芸術性のないお粗末ぶりだ。
曽根刑事から神谷について聞いたのは、年齢と、近ごろ仕事を失っていたらしい、という程度だった。
しかし、私はこの神谷怜司という男に妙な興味を覚えた。
一連の話を整理してみると、行き当たりばったりの窃盗犯とは思えなかった。
受け取りまでの台本は巧妙である。
空き部屋を住居に見せかけ、表札を出し、一輪挿しまで用意する。
身なりを整え、自然な口調で配達員を安心させる。
そこには、人に信用されるための演出力があった。
ところが、最後は都内の質屋へ持ち込み、即座に換金という風情なき結末。
神谷が116520を質屋に持ち込んだ動機を曽根刑事から聞かされることはなかった。


















