著者のコラム一覧
カモシダせぶん書店員芸人

1988年、神奈川県生まれ。お笑いコンビ「デンドロビーム」(松竹芸能)のメンバー。日本推理作家協会会員。現在、都内の書店でも働く現役の書店員芸人。著書に「探偵はパシられる」など。

作品に「白」と「黒」、その振り幅が凄い「乙一 デビュー30周年記念自選短編集 1996-2026」乙一著

公開日: 更新日:

「乙一 デビュー30周年記念自選短編集 1996-2026」乙一著

 20年前、夏休みに高校の友人たちと石垣島に遊びに行ったときのこと。悪友の1人から「カモシダ、移動中退屈だろ。爽やかな小説でも読みなよ」と渡されたのが乙一さんの「暗黒童話」だった。全くもって爽やかではないし南国に行くのに雪の町の話だったが、とても面白かったのを今でも覚えている。これが僕の初めての乙一作品で、東京に帰ってから氏の作品を読み漁り、それこそ人生で一番長く追いかけてる作家になった。だからこそ、表紙に書かれている「デビュー30周年記念」の文字はグッとくる。

 本著は乙一さん自身が選んでいることもあり初期作品から書き下ろしの最新短編まで網羅しているのはもちろん、書店で今でも気軽に買えるメジャーな短編集からの抜粋ではなく、なかなかレアなところから持ってきた話が多いのもファンとしてはうれしい限りだ。特徴的だったのは「ベッドタイム・ストーリー」「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の2作。前者は声優の坂本真綾さん、後者は俳優の栗山千明さんによる朗読劇で扱われた短編だ。目で読んでも、耳で聞いても楽しめるこの2作の中には普段とはまた違う味わいもあった。

 乙一作品にはファンの間で白乙一、黒乙一と分けられているものがある。児童向けの青春の一ページを切り取ったような甘酸っぱい話や心温まる物語が白、心底震えあがるホラーが黒、ここまで振り幅があるのが本当に凄い。

 本著は割と白寄り。結構黒かったのは先にも紹介した「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」。いきなり主人公が眼球をくりぬかれるシーンがあったりするので。殺人者、異常者が出てきても、そのキャラが完全な冷血ではなく、少し体温が低そうな人物として書かれてるのでリアリティーである。逆にキュンキュンするキャラはうっすら体温高めな気がする。体温の魔術師である。

 久しぶりに読んだ「ウソカノ」が懐かしすぎて大切な友人に久しぶりに会えたかのような気持ちで涙し、「山羊座の友人」ではFFやバイオハザード、桃鉄などのゲームが登場。世代的にたまらない。そして新作「アテンド探し」はまたほかで見ないような設定でワクワクさせてくる。

 乙一の神髄に触れられる一冊。再読にも初読にもオススメだ。 (講談社 2475円)

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