第12話:計画的略奪
後日、ふと神谷怜司の名前を検索してみた。
すると本人が書いていると思われるブログにたどり着いた。
プロフィル写真には、日に焼けた肌と純白の歯を見せて笑う、端正で自信に満ちた顔があった。
記事の端々に「大学ラグビー」「メガバンク」「外資系コンサル」という単語が散らばっている。
華やかな経歴を、まるで当然のもののようにさらりとつづる筆致。
私は画面を閉じた。
高い生活水準を1日でも長く続けたかったのか、商品受け取りまでの展開が順調すぎて最後の着地点を思い描けなかったのか、はたまた消費者金融の決済日が迫っていたなどすぐに金銭が必要な何かに追われていたのか、いずれにしても換金には商品の受け取りまでの緻密さがみじんも感じられない。
入り口は洗練され、出口は杜撰。
その落差が、なぜか妙に胸に残った。
曽根刑事によると、盗難品は手続き上、弊社に戻る扱いになるという。
弊社は郵便局の保険で販売代金分を回収できるため、実害はない。
買い取り後に盗品であることが判明しても気付かぬそぶりをする店舗もあると聞く。
質屋は正直に対応した結果、買い取り代金だけを奪われるという憂き目を見た。
盗品が持ち込まれるリスクは古物商の宿命かも知れないが、正直者の質屋を不憫に思い、そして窃盗の対象にされたいわく付きの116520ブラックを再販するのも気が進まないと感じたため、結果的にその個体を質屋に譲ることにした。
「そんなことだから『業界一のお人好し』なんて言われるんですよ‼」
などと、スタッフからはかなりの叱責を受け、同業の景浦氏に後日談を話すと「ホントもったいないことしますねぇ。いくらでも『やりよう』があるのに……一声かけてくださいよぉ」と、嘆かれてしまった。
後日、質屋の店主からは感謝の電話が入った。
それが最良の選択だったかどうかの判断はできかねたが、すがすがしい気持ちにはなれたので、「良し」とすることにしよう。
私は神谷(佐藤淳)からのメールの内容にも、電話口の丁寧な口調にも一片の疑念を抱くことはなかった。
性善説は美徳である。
しかし、悪意ある者にとっては、攻略可能な隙でもある。
質屋からの連絡を受けた翌日の午後。
再び梅雨の合間の西日が、事務所の窓から差し込んでくる。
最初に曽根刑事から電話が入った10日前と同じ角度、同じ色合いの光。
私はデスクに座ったまま、しばらくその光を見つめていた。
私はゆっくりと息を吐き、メール注文の確認を始めた。
フリーメールアドレスからの、新たな一本の注文依頼が届いている。



















