舘ひろし氏「太平洋戦争はエリートが犯した失敗の宝庫」

公開日: 更新日:

映画「アルキメデスの大戦」山本五十六役・舘ひろし氏

 74年前の8月15日、戦争が終わった。第2次世界大戦下、日本の最高技術を結集して建造された戦艦「大和」。公開中の映画「アルキメデスの大戦」(山崎貴監督)では、史実とフィクションを交えながら巨大戦艦誕生までの攻防を描く。戦争シーンはほとんどなく、不正を暴くプロセスを丁寧に描いたこの作品。「建造計画を止めることが戦争回避に通ずる」と主張した軍人、山本五十六を演じた役者は何を思ったか。

■「阿川弘之の著書を読み返しました」

 ――山本五十六役といえば過去にそうそうたる俳優陣が演じてきました。

 一般的に知られる五十六は大将になってから。今回演じたのは、それ以前の戦争になるかどうか、まだ分からなかった海軍少将の時代です。そこで演じるにあたって改めて、「山本五十六」(阿川弘之著)を読み直しました。戦争に反対した「海軍三羽烏」の米内光政、山本五十六、井上成美について詳しく書かれていて、米内光政が五十六について「茶目ですね」と語っていた。それが演じる上でのキーワードになりました。

 ――茶目というのは?

 五十六は「考えるときに逆立ちをしていた」「英国から帰国したときのパレードで芸者のほうを向いてウインクをした」「プレーボーイだった」などの人間味のあるエピソードがありますね。

 ――指導者像としてはどうですか。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」という有名な格言があるように、非常にリーダーシップのある人ですよね。彼は大将になっても、一兵卒が敬礼をすると必ず答礼をしたという記録が残っています。カミソリのように頭が切れる人で、自分の信念を貫く指導者として素晴らしいと思います。

 ――当時の「大艦巨砲主義」との戦いが映画のテーマでもあります。

 大艦巨砲主義がどこから来ているかというと、日露戦争でバルチック艦隊にパーフェクトゲームをやったこと。そこで日本海軍にはいいイメージが残ってしまった。おそらく世界中が大艦巨砲主義だったけれど、五十六の場合はハーバード大学留学や駐米大使館付武官の経験もあって米国については熟知していた。いずれ飛行機が軍事的に世界を制すると肌で感じていたから巨大戦艦はいらないと唱えていたし、当時から完全に大艦巨砲主義を否定していたんです。

 ――軍事指導者として先を見通す力を持っていても、持たない者に押し切られてしまうのが戦争の怖いところです。

 議論をしたというか、数で負けてしまった。主導権を握っていたのは、大艦巨砲主義のいわゆる艦隊派。彼らはどこかで戦争をしたかったんでしょうね。戦争したら確実に負けるということが分かっていても、武器を持てば試したくなるというか、軍人の血が騒ぐというか。五十六が真珠湾攻撃をしたのは、航空主兵主義をしたかったというのもあると思いますよ。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「時代に挑んだ男」加納典明(25)中学2年で初体験、行為を終えて感じたのは腹立ちと嫌悪だった

  2. 2

    ソフトB近藤健介の原動力は「打倒 新庄日本ハム」…憂き目にあった2022年の“恩返し”に燃える

  3. 3

    ドジャースが欲しがる投手・大谷翔平の「ケツ拭き要員」…リリーフ陣の負担量はメジャー最悪

  4. 4

    “お荷物”佐々木朗希のマイナー落ちはド軍にとっても“好都合”の理由とは?

  5. 5

    参政党が消せない“黒歴史”…党員がコメ農家の敵「ジャンボタニシ」拡散、農水省に一喝された過去

  1. 6

    遠野なぎこさんを追い詰めたSNSと芸能界、そして社会の冷酷無比な仕打ち…悲惨な“窮状証言”が続々

  2. 7

    巨人・田中将大「巨大不良債権化」という現実…阿部監督の“ちぐはぐ指令”に二軍首脳陣から大ヒンシュク

  3. 8

    藤浪晋太郎に日本復帰報道も、古巣阪神出戻りは「望み薄」…そして急浮上する“まさか”の球団

  4. 9

    巨人・田中将大を復活させる「使い方」…先発ローテの6番目、若手と併用なんてもってのほか

  5. 10

    自民・鶴保失言「運のいいことに地震」で苦戦の二階ジュニアに赤信号…参院選“仁義なき紀州戦争”決着か