著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

いい絵だから額装するのではない。額装してはじまる家族の物語がある

公開日: 更新日:

 例えばピカソとは違って、マティスの初期作品に大器の片鱗を見出すのは困難だ。ゆっくり覚醒し、30代以降に爆発する人生。そのかわり、成功と名声を得てリゾート地ニースに移り住んだ50代以降も勢いは止まらず、70代では切り紙絵という手法で新たな表現の地平を開拓した。色ムラのない切り紙絵は、さしずめデジタルアートの先駆けか。とくに人気作品〈イカロス〉を含むシリーズ『ジャズ』は決定的にモダンでポップ。晩年に若々しい傑作をものにしたアーティストは、没後も半永久的にフレッシュなイメージを維持できるという好例である。

 すべて観終えて、館内のショップで〈イカロス〉の手頃な価格のポスターを買い求めた。隣で息子が「こんなのボクだって作れるよ」と生意気な口をきく。だが今日ばかりは叱る気にもならない。なぜか、それでよしという気がした。

■かかりつけの歯科にあった抽象画

 翌日、かかりつけの歯科に行った。待合室で、あざやかな色合いの抽象画に目が行く。これまでじっくりと観たことはなかったかもしれないが、いいものだな。やがて自分の名前が呼ばれ、診療用のチェアに座ったぼくは、目の前の壁を二度見した。なんと、シャープに額装された〈イカロス〉のポスターが飾ってあるではないか。院長、マティス展行きました?「ええ」。ぼくより少し歳上の院長は、真っ白な歯を見せて笑った。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広陵・中井監督が語っていた「部員は全員家族」…今となっては“ブーメラン”な指導方針と哲学の数々

  2. 2

    11歳差、バイセクシュアルを公言…二階堂ふみがカズレーザーにベタ惚れした理由

  3. 3

    中居正広氏は法廷バトルか、泣き寝入りか…「どちらも地獄」の“袋小路生活”と今後

  4. 4

    【広陵OB】今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  5. 5

    二階堂ふみと電撃婚したカズレーザーの超個性派言行録…「頑張らない」をモットーに年間200冊を読破

  1. 6

    開星(島根)野々村直通監督「グラウンドで倒れたら本望?そういうのはない。子供にも失礼ですから」

  2. 7

    最速158キロ健大高崎・石垣元気を独占直撃!「最も関心があるプロ球団はどこですか?」

  3. 8

    風間俊介の“きゅるるん瞳”、庄司浩平人気もうなぎ上り!《BL苦手》も虜にするテレ東深夜ドラマの“沼り力”

  4. 9

    前代未聞! 広陵途中辞退の根底に「甲子園至上主義」…それを助長するNHK、朝日、毎日の罪

  5. 10

    山下美夢有が「素人ゴルファー」の父親の教えでメジャータイトルを取れたワケ