俳優・西岡德馬さん78歳「万雷の拍手をいただくことが一番の栄養、サプリメント」
転機になった、つかこうへい「幕末純情伝」
僕の芝居が変わったと思ったのは、パルコ劇場で、つかこうへいとやった「幕末純情伝」(1989年)ですね。初演の時です。
新選組の沖田総司は女だったという設定で、土方歳三と坂本龍馬が沖田を取り合う芝居です。龍馬が赤いパンティーにブラジャー、網タイツ姿でワッセワッセと腕立て伏せをやりながら「俺が土佐の坂本龍馬だ」みたいに演じるんだけど、最初は「これを本当に俺がやるの?」と言いましたね。
でも、当時は消防法もそんなにうるさくなく、通路までお客さんがいっぱいに入って立錐の余地もないほど。やるしかないですよ。その中でバスローブ姿の僕がチョー・ヨンピルの歌を歌いながら舞台に出ていくと、「おまえは誰だ」と言われる。それに「土佐の坂本龍馬じゃ!」ってバスローブを脱ぎ捨て、パンティーにブラジャー、網タイツ姿になる。
つかには「こんな龍馬がいるかよ」って言ったんです。すると「龍馬だって毎日毎日、天下国家を論じてばかりいたわけじゃないだろ。この女がいい、あの女がいいと思って生きていたに違いないし、その方が面白いだろ」って。それを聞いて、それもそうだなと妙に納得したりしてね。つかと出会って本当にバカみたいなことをやらされたけど、芝居を続けていく上での転機、いいクスリになりました。
その関連でいうと、どうも僕は他の人よりも面白がるところ、お調子者のところがあるみたいですね。ゾーンに入るというか、そこに入り込むと一種のトランス状態になる。脳が感じ、脳内にドーパミンが出る。それで、今「これは!」と思って読んでいるのが、たまたま娘に薦められた「あなたはプラシーボ」(ジョー・ディスペンザ博士著)という本です。
プラシーボは臨床実験の時などに使う偽薬のことです。睡眠薬ではない偽薬を飲まされたのに、飲んだら眠くなっちゃうみたいなことです。もしそれが本当なら薬はいらなくなるし、人間は気持ちの持ちようでどうにでもなるということ。つまり自浄作用や治癒力で何でも自分で治せるということです。
トライアスロンをやって背骨が4本折れたのを自力で治したとか、プラシーボの講演に車椅子でやって来た人が、講演を聞いたらすっと立ち上がった話もある。ちょっとスピリチュアルな話になるけど。
実はノンアルツ、髪が生える液体、黒酢、にんにくとかいろんなサプリを飲んでいるけど、サプリは飲み過ぎて胃がおかしくなるし、薬を食べているみたいだなと思っていたところにプラシーボの話になったので、面白いと思ってね。
■プラス思考で150歳まで長生きできるんじゃないか
要はポジティブシンキング。プラス思考でいれば150歳まで長生きできるんじゃないかと思ったりしてね。僕は今78歳だけど、150歳ならまだ半分。もう80歳かと考えるか、まだ80歳と考えて倍生きるか。そんなふうに考えていれば、ずっと若いままでいられるかななんて考えています。
運動は昔からゴルフです。里見浩太朗さんのご自宅が近いこともあって誘われ、週1回はご一緒しています。友達にも誘われます。ゴルフは体を捻転させなきゃいけないでしょ。ギュッとひねるのがいい。
時々、若い人とも一緒にやります。彼らは飛ばすからね。女子プロの飛距離もすごいでしょ。彼らに負けると悔しいのも励みになります。
今はテレビ東京系の「失踪人捜索班 消えた真実」という連ドラに出ています。僕が演じているのは警備会社の社長です。ネタバレだけど、警察のOBというくせ者の役どころです。刑事ドラマは1話完結が多いけど、これは前の回の話を絡ませながら続いていくのがいい。作り方もしっかりしている。周囲には「これは絶対に当たる」と自画自賛しています。150人くらいの知り合いに放送日をLINEで毎回、お知らせしています。
6月17日からは「狂人遊戯」という芝居を両国のシアターXでやります。実はつかの「熱海殺人事件」をやろうと思っていました。35歳の木村伝兵衛の役を、80歳になろうとする僕がやるつもりでした。ところが、原作の許可が下りなくてね。でも、つかの作品をやってきた春田純一の出演は決まっているし、演出の錦織一清もやりたいと言うし。つかの芝居に関わってきた羽原大介に、つかであってつかではないみたいな脚本を書いてやらないかと、台本を書き直してもらった。「狂人遊戯」というタイトルは僕が考えました。ご興味のある方はのぞいてみてください。
(聞き手=峯田淳)
●自伝本「未完成」発売中(Audible版も好評)
●「失踪人捜索班」(テレビ東京系)に出演中
●舞台「狂人遊戯」 6月17~25日シアターX(カイ)、28日~7月6日神戸三宮シアター・エートー