著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。

萩本欽一〈58〉細川たかしの人生を変えた欽ちゃんの一言 「北酒場」「矢切の渡し」2年連続レコ大の裏側

公開日: 更新日:

 作家・増田俊也氏による連載、各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。待望の第2弾は、「視聴率100%男」として昭和のテレビ界を席巻したコメディアンの萩本欽一氏です。

  ◇  ◇  ◇

増田「萩本さんの仕事は、人との出会いや恩が、思いがけない形でヒットにつながることばかりですね」

萩本「そういう話だったら、『北酒場』も面白いよね。あれも人に話してないことがあるの」

増田「細川たかしさん*の『北酒場』ですね」

※細川たかし(ほそかわたかし):演歌歌手。1950年北海道生まれ。1975年「心のこり」でデビューし、日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞。「北酒場」「矢切の渡し」など数多くのヒット曲を持つ。「北酒場」で1982年、「矢切の渡し」で1983年の日本レコード大賞を受賞し、史上初の2年連続大賞受賞を果たした。力強い高音と独特の節回しで長く演歌界を代表する歌手として活躍している。

萩本「そう。『北酒場』が売れてレコード大賞*まで行ったでしょう。それでお正月が過ぎたころ、彼が俺のところへ来たの」

※日本レコード大賞(にほんレコードたいしょう):日本作曲家協会が主催する音楽賞。1959年に創設され、その年を代表する楽曲や歌手などを表彰する。最高賞である「日本レコード大賞」は、年末に行われる授賞式とともにテレビ放送され、長年、日本の音楽界を代表する賞の一つとして親しまれてきた。細川たかしは「北酒場」「矢切の渡し」で1982年、83年と2年連続で大賞を受賞した。

増田「細川さんが直接?」

萩本「そう。『ありがとうございました。久しぶりの大ヒットで、これでまた地方回りができます。地方回りで頑張っていきます』って言うの」

増田「大ヒットを足掛かりに、全国の営業を回る」

萩本「俺、それ聞いて『ああ、歌手の人ってそういう流れがあるんだな』と思ったの。でもね、そういう流れにそのまま乗るって、つまんない話だなと思って」

増田「そこで萩本さんが止めた」

萩本「『レコード大賞ってさ、2年連続で取った人っているの?』って聞いたの。そしたら『そんな人いないですよ。あれは順番ですから』って」

増田「当時は2年連続という発想自体がなかった」

萩本「そう。だったら俺、『誰もやってないことに挑戦したら?』って言ったの。地方回りはそのあとでもできるじゃない。1回挑戦して、失敗して、それから地方回りに行ったっていいでしょうって」

増田「一度できた成功のコースに乗らない」

萩本「そう。俺ね、いいからってずっと続かせるの嫌なの。いいときに変えるの。テレビでもそう。まだ数字がいいのに変えちゃう。テレビ局は嫌がるよ。『変えないでくれ、変えないでくれ』って。でも変えないと、どっかで古くなったときに、その先がなくなるの」

増田「ヒットしている最中に次へ行く」

萩本「そう。それで彼に、『地方回りやめて、次もレコード大賞に挑戦するっていう方が面白くない?』って言ったの」

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