苦しんでいる友人、隣人を助けなければ│「毒殺村 二〇世紀最大の『夫殺しカルト』」ホープ・リース著 広瀬恭子訳
「毒殺村 二〇世紀最大の『夫殺しカルト』」ホープ・リース著 広瀬恭子訳
ハンガリーの小さな寒村、ナジレーヴ村で、20世紀の初め、妻たちによる夫殺しが多発した。方法は毒殺。蠅取り紙を酢か水で煮出して作った毒液を、夫の飲み物に混ぜて飲ませる。第1次世界大戦前後の20年間で300人を超える犠牲者が出たと推計されている。当事国ハンガリーでさえ知る人が少ないこの歴史的事件を、裁判記録や捜査当局の調書をよりどころに再現、最新の知見に照らして原因を追及した衝撃のノンフィクション。
著者はアメリカ生まれのジャーナリスト。旅先のブダペストで耳にした話をきっかけに、この女性による前代未聞の連続毒殺事件を調べ始めた。
ナジレーヴ村の女性たちは、他の多くの国と同様、長い間女性蔑視に苦しんできた。望まぬ結婚、夫の暴力、嬰児殺しを強いられるほどの貧困、独身女性に対するひどい差別。特に第1次世界大戦前後の時代、彼女たちは絶体絶命の窮地に追い込まれていた。その原因は夫。DVやPTSDという言葉も概念もなかった時代、妻たちは夫の暴力に打ちのめされていた。夫たちは戦場でのトラウマやアルコール依存症を抱え、妻をはけ口にした。裁判記録や調書に残された彼女たちの証言からは、暗澹たる日常と、出口のない絶望感が伝わってくる。
村の公認助産師ジュジおばさんは、彼女たちの苦境をよく知っていた。薬の知識を生かして、出産の介助を超えた人生の手助けを始める。ひそやかな噂話は迫害されていた村の女性たちの間に広まり、シスターフッドが形成されていく。毒液が運命を変えてくれるかもしれない。苦しんでいる友人、隣人を助けなければ。
この事件はいわゆる家庭内殺人とはわけが違う。「女性が逃げ道を探すと何が起こるか、女性が団結すると何が起こるか、という話なのだ」と著者は書く。事件が発覚し、裁判になってからも、彼女たちは夫殺しを悔いてはいない。
(河出書房新社 2640円)



















