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佐々木常雄東京都立駒込病院名誉院長

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

「最期まで治療したい」という患者の気持ちは人間として当然のこと

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 A医師は「母はこの期に及んでもがんに対する薬を飲み続け、希望を持っていたいのだ」と痛感し、とっさに「いったん薬をやめて、体調が良くなったらまた始めるから……」と口にしました。母親から「あなたの言う通りにするわ」とあっさり返事がきて、その時はホッとしたといいます。

 結局、母親は再度その薬を飲むこともなく、緩和病棟に移って2週間後に亡くなりました。A医師は、「母が亡くなってからも、薬を中止したことがずっと気になっている」と私に教えてくれました。

■ほとんどのホスピスはがん治療は行わない

 ホスピスに長年勤められた医師の柏木哲夫氏は、論文(Oncology Epoch17:34―35 Autumn 2011)の中でこう書かれています。

「最近では、効果が高く副作用も少ない分子標的治療薬が出てきたことから、末期でも、緩和ケアと並行しながら化学療法を続ける患者さんが増えています。治療を受けながら、死への心の準備ができないままに、ご家族との別れを惜しむ間もなく最期を迎える患者さんが増えているように感じます。こうした状況は、抗がん剤の副作用に代わって新たに生じた副作用のように思えてなりません。日本の医療に『死の準備』という概念を持ち込むのは容易なことではありませんが、良いみとりへとうまく移行できる方法論を考える必要が生じてきているように思うのです」

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