(30)どの施設ならいいのか…判断材料はほとんどなかった
父が亡くなり、残された猫たちを東京に引き取った私は、実家の整理と事務的な手続きに追われながら、限界に近い疲労を感じていた。こういう時に限ってなぜか仕事も忙しく、次から次に依頼や打ち合わせが相次いでいた。先行きのわからない不安から、私はあらゆる依頼を引き受けた。
父の死後2カ月が過ぎた春ごろ、母の入院先から「そろそろ退院後のことを考えてほしい」と連絡があった。父のいなくなった実家で、日常生活のできなくなった認知症の母が暮らすのは難しい。ただし、私が東京の生活を引き払って熊本の実家に帰り、介護生活に入ることは一切考えなかった。
施設探しを始めようと地域包括支援センターに相談したところ、無料で探してくれる民間業者を紹介された。公的機関である「包括」では、制度上、特定の施設を紹介したり斡旋したりすることはできないらしい。そのため、実家の区域にある包括では、外部の紹介業者につなぐという対応になっているのだという。
紹介業者の担当者からは、予算や必要な介護の状況、医療的なケアの要否など、いくつかの項目をヒアリングされた。だが、私はこの段階で早くも行き詰まった。