(4)「チャレンジ依存症」という病気を理解することが不可欠
これまで3回にわたって痴漢、盗撮の依存症について説明してきた。チャレンジ依存症から更生することが、いかに厄介なことか分かっただろう。ライフサポートクリニックの山下悠毅院長が説明する。
「できない仕組みを作るツールには、『THE TPO(ザ・ティーピーオー)』のあぶり出しが大切です。Tはツール=問題行動につながる道具、Hはヒューマン=問題行動を呼び起こす対象人物、Eはエモーション=問題行動の手前にある自らの感情、Tはタイム=問題行動をしたくなるタイミング、Pはプレース=問題行動を行う場所、Oはアザー=その他、自分の中で渇望の誘因になる要因です」(山下院長=以下同)
例えば、盗撮であれば、Tはスマートフォンのカメラや無音アプリ、Hはスカートの女性、Eは退屈な気分、Tは通勤時、Pは駅構内という具合だ。このように、問題行動を働かせる環境や理由があるからこそ、当人は「やりたくなる」。裏を返せば、こうした環境をつくらないようにすれば、問題行為は起こりづらくなる。
「依存症は自制心でどうこうできる病態ではないということ。論理的にアプローチしないと治りません。これは、当事者の家族の方も理解しなくてはいけません。感情的に説教したり怒っても、問題行動は治らない。先に説明したような治療を繰り返していくことで、“問題行動ができない仕組み”を守れて自分に自信が持てます。自信ができれば、わざわざ逮捕されるかもしれない無価値なチャレンジに身を投じることもなくなります。回復とは、“何かを成し遂げた状態”ではなく、“『自分はやめ続けることができる』と信じることができ、そう信じている自分のことを誇らしく思える状態”のことなのです」