著者のコラム一覧
小堀鷗一郎医師

1938年、東京生まれ。東大医学部卒。東大医学部付属病院第1外科を経て国立国際医療センターに勤務し、同病院長を最後に65歳で定年退職。埼玉県新座市の堀ノ内病院で訪問診療に携わるようになる。母方の祖父は森鴎外。著書に「死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者」(みすず書房)。

病院への搬送がプラスに働いた98歳一人暮らしの元女優

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「お見舞いに行った時は、あでやかな黄色の洋服に同色のヘアバンドというファッションで出迎えてくれました。セピア色の世界を施設で築いているのです。あの時、病棟の担当医が口の中に指を入れなかったら、彼女は私の指導の下で、自宅に身を置くことになったはず。そうなると、今のような人間らしい生活、輝いていたひと時に浸る生活は送れなかったのではないかと思います」

■透析を中止し2週間後に亡くなった女性

 一方で、積極的な治療を受けないことを選択し最期を迎える人もいる。8年間、週3回の透析を受けていた94歳の女性は、1回あたり数時間の治療が苦痛だった。

「最後の数年は透析に通うのが嫌だと泣いていました。その長男も透析の中止を強く希望され、何度も話し合いを続けた結果、2人の意思を尊重する決断をしました」

 2週間後、彼女は帰らぬ人となった。

 それまでは毎日、禁忌となっていた好物のグレープフルーツジュースをおいしそうに飲んでいたという。

「医療に正解はありません。さまざまな形があるのです」

 それだけに、どう判断して決断するのかは、誰にとっても難しい選択になる。

【連載】死なせる医療 訪問診療医が立ち会った人生の最期

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