「常に痛い…ひたすら我慢です」俳優の阿南健治さん語る帯状疱疹後神経痛

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唯一、痛みを感じない瞬間は芝居で役に入っているとき

 その後、ペインクリニックの医師から大学病院への入院を提案され、2週間ほど入院しました。そこでも神経ブロック注射はやはり効かず、背中に電極を埋め込んだりしました。電気的な刺激で痛みを和らげる治療のようでしたが、良くなりませんでした。

 最終手段として、脳に電気ショックを与えて痛みの記憶を飛ばす治療法があることを聞きました。でも、さすがにそれは嫌だなと思ったので、なんとか薬で痛みが取れないものかと、そこから数カ月間、いろいろな薬を試しました。

 医師と相談しながら、うつの薬や、医療用の麻薬の貼り薬、新薬の治験に参加したこともあります。藁にもすがる思いで、情報誌で知った怪しげな薬にも1度だけ手を出しました。でも、どれも効果がなく、とうとうやることがなくなって、薬を諦めました。

 その後はひたすら我慢です。常に痛い。痛くない時がない。チクチクのときもあれば、筋肉をギュッと絞られるような痛みの時もあります。

 えらいもので、長年痛みと付き合ってきたことから、痛むときの対処法を独自で編み出しました。腰のストレッチというのでしょうか。痛みが軽減する姿勢や運動が自分の中ではあって、それを実践しています。痛みのためにいつも全身に力が入るので、就寝する時は毎晩、意識的に脱力をして、「痛くない」と自己暗示をかけながら寝ます。

 唯一、痛みを感じない瞬間は、芝居で役に入っているときです。役に集中することで痛みを感じる神経が鈍くなっているのかもしれません。

 でも、それ以外はずっと痛いです。ただ、それを伝えたいのは同情してもらいたいわけでもなく、気遣ってほしいわけでもありません。「ずっと痛い」なんて、なかなかない経験で、そういう意味で“面白い”と捉えているからです。たまたま私は俳優という仕事をしていて、こうしてお話しする機会があるから「こういう病気がある」ということをお話しさせてもらえて、ありがたいと思っています。

 ずっと痛いんですけど、命に関わる病気ではないので、人生観は変わりませんし、生活もそんなに変わっていません。

 この病気は原因不明の自己免疫疾患のひとつですから、とにかく免疫力が低下しないようにという気持ちは持っています。だからといって、何かやっているかと言われると何もやっていませんけれど(笑)。

 帯状疱疹という病名は、聞いたことがあったくらいで実態は何も知りませんでした。幼い頃の水疱瘡のウイルスが体内に残り続けていて、免疫力が落ちると復活して帯状疱疹として現れるということも、帯状疱疹に後遺症があることも、病気になってから学んだことです。でも、おかげさまで自分の体の不調や痛みへの対処法などを発見することも多くて、より体のことを知りたいと思うようになりました。

 痛みがあると、気が弱くなることも実感しました。つらさから現実逃避したくなる気持ちも今ならわかります。そういう意味でも貴重な体験をしているんだと思います。

 痛みはこれからも続きます。でも、くよくよしても仕方がありません。どんよりしていても治りません。ならば、痛みを忘れられる方法を見つけることに気持ちをシフトしたほうがいい。私はそう思ってこれからも痛みと付き合っていきます。

 (聞き手=松永詠美子)

▽阿南健治(あなん・けんじ) 1962年、大分県出身。89年に劇団「東京サンシャインボーイズ」に入団し、舞台をはじめ映画やドラマで活躍。昨年8月にはグラクソ・スミスクライン株式会社の帯状疱疹疾患啓発CMに出演。1月24日公開の映画「美晴に傘を」、2~5月の東京サンシャインボーイズ復活公演舞台「蒙古が襲来」に出演。

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