さらりと、紅葉宅<神楽坂>2
神楽坂の中でもやっぱり横寺の辺りはいい。路上で夕涼みをしていたおばあさんが「古い建物が結構残っているから、散歩にはいいかも」と言っていたが、入り組んだ細道からは、子供時代のワクワク感が蘇る。そこを曲がれば、何に出合える……?
と、出合ったのは、尾崎紅葉が住んでいた「十千万堂」。紅葉は、鳥居さんというお宅の母屋を明治24年から36年に亡くなるまで借りていた。「金色夜叉」を書いたのもここ。当時の家は戦災で消失したが、鳥居さん宅には今でも紅葉がふすまの下張りにした俳句の遺筆が保存されている――。
こんな場所が、さらりとあるのだ。大通りに矢印付きの看板を立ててアピールしてもよさそうなのに。たまたま入った細道で紅葉先生の住まいを見つけるなんて、興奮しないでいられようか。これは一例で、自分の中だけにとどめておきたい細道にはいくつも出合った。
喉がカラカラ。渇きを癒やそうと飲食店が並ぶ方向に向かう途中、魅惑の地名にぶつかった。「白銀町」!
「“はくぎんちょう”って読むんですかね?」