幻の店「クロッサムモリタ」も運営「六花界」社長・森田隼人さんの巻<1>
本枯中華そば 魚雷(東京・春日)
この店のルーツは、長野にあります。オーナーの塚田兼司さんは、長野ではテレビ番組を持つタレンティブな存在で、ラーメンへの情熱がスゴイ。
店に入ると、右手カウンターのガラス越しにコーヒーサイホンが見えます。注文を受けると、このサイホンで香り高いスープを仕上げているんです。前代未聞のラーメンでしょう。
鹿児島県枕崎でカツオ節の最高峰・本枯節に出合った塚田さんは、「ひっくり返るほどウマくって、いつか本枯節を使いたい」と思っていたといいます。それを実現させたのが10年前。魚介系と動物系を合わせたダブルスープに、サイホンで追いガツオします。その追いガツオに使われるのが本枯節で、香りが加わるんですね。
フラスコに香りとウマ味がギュッと
サイホンのフラスコにダブルスープ、ロートに本枯節と節粉を入れます。スープが沸騰すると上に上がり、本枯節のウマ味を吸い込んで下に落ちていく、この作業を1杯ごとに繰り返すんです。フラスコは密閉されていますから、香りとウマ味がギュッと閉じ込められます。
フラスコを傾け、この究極のスープを丼の縁から注ぐと、丼の底でほどよく回転。濃い口醤油などで作られた返しといいあんばいに混ざります。このスープが本当にウマい。
で、僕が好きなのが、稲庭中華麺です。その名前の通り、秋田県の特産稲庭うどんのようなツルッとしたのど越しのオリジナル麺。稲庭うどんと北海道産の小麦を原料にしているそうで、のど越しのよさを生かしながらも、食べたときのおいしさは中華麺のそれなんです。
稲庭中華そばを食べると秋田を旅行した気分になる
スープと麺の融合ですよ。うまく結びつけているのが、サイホンで封じ込めた香りでしょう。ウマいラーメンはいくらでもあります。でも、ラーメンの概念をひとつの料理にまで引き上げているのは、ここ魚雷だけでしょう。
サイホンスープと稲庭中華麺のマリアージュは、宝石のような一杯に仕上がっています。ホント、食べ終えると、秋田を旅行したような気分になるんです。それが1000円未満でいただけるのがスゴイ。
塚田さんは常にネクストブランドを考えています。行列店の成功パターンに頼ると、その味に飽きられたときに自分もスタッフも路頭に迷うからで、だからこそ、異なる味、新業態で勝負し続けるんです。その旺盛な探求心から、目が離せません。
※現在は20時までの時短営業。
(取材協力・キイストン)
□本枯中華そば 魚雷
東京都文京区小石川1―8―6 アルシオン文京小石川102
℡03・5842・9833
■六花界グループわずか2・2坪、“相七輪”で立ち食いという斬新なアイデアが受けた「六花界」を皮切りに、独自の焼き肉店を展開する。六花界の行きつけになると、「五色桜」「吟花」の会員になれるという会員制ピラミッドを組む。その頂点に君臨する「クロッサムモリタ」は幻の存在。
▽もりた・はやと 1978年生まれ。近大理工学部を卒業後、建築関係を経て、2009年に東京・神田のガード下に焼き肉屋「六花界」をオープン。日本酒をこよなく愛し、第12代酒サムライとして日本酒の普及活動も行っている。