定年後再雇用の給料闘争 6割以下は不合理判決も攻防は激化

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 60歳で定年を迎えたら、嘱託や契約社員で食いつなぐ――。そう考えている人は少なくないだろう。正社員から非正規社員になると大幅な年収ダウンが避けられないが、そんな中、名古屋地裁は先月28日、定年後の基本給が定年前の6割を下回るのは不合理とし、未払い賃金分の支払いを命じる判決を言い渡した。サラリーマンには画期的な判決だが、今後、定年を巡る再雇用の“攻防”はむしろ厳しくなるとみられている。

  ◇  ◇  ◇

 名古屋自動車学校に勤めていた男性2人は、2013~14年にそれぞれ定年になって再雇用。65歳まで嘱託職員として技能講習や高齢者教習を担当した。仕事の中身と責任の範囲はそのままだったのに、基本給は定年前の16万~18万円から10万円ほど下がって7万~8万円になった。その後、16年に不合理な待遇格差を禁じた労働契約法旧20条に違反するとして提訴していた。

 名古屋地裁の井上泰人裁判長は、再雇用の際に賃金に関する労使の合意がなかった点にも触れ、定年前の基本給の6割を下回るのは不合理な待遇格差と結論付けた。嘱託社員のボーナスが正社員の金額を大幅に下回ること、教習時間に応じた手当の減額も不合理と認めた結果、会社側に合計625万円の支払いを命じている。

会社が狙うリストラの加速

 このところ、正社員と非正規との待遇格差を巡る訴訟の最高裁判決が相次いでいた。大阪医大の元アルバイトがボーナスの支払いを求めた訴訟では先月13日、職務内容に一定の相違があったとして、ボーナスの不支給が不合理な待遇格差に当たらないと判断。

 同日、メトロコマースの元契約社員らが退職金の支払いを求めた訴訟では、正社員との間に役割などに差があったと判断し、退職金を支給しないことは不合理とまではいえないとしていた。

 一方、日本郵便の契約社員らが扶養手当や有給の夏季・冬季休暇などを求めた訴訟では同15日、いずれも不合理と認定。扶養手当などの支給を認めている。

 今回の判決は、ボーナスや手当よりも生活に密接に関わる基本給。その正社員との格差是正を認める判決は全国初とみられ、「定年前の6割を下回れば不合理」と基準を示した点で画期的だろう。

 判決を額面通りに解釈すれば、再雇用後の年収は定年前の最大4割ダウンで済むことになる。再雇用後の収入が定年前の5~6割減はザラだ。「半減しなければ、まあいいか」と軽く考える人がいるかもしれないが、そんなことはない。今回の判決によって、再雇用の基準を厳格化させる企業が広がる可能性があるという。

 働き方改革総研代表の新田龍氏が言う。

「高年齢者雇用安定法によって、従業員は60歳の定年後も希望すれば、65歳まで再雇用するのが義務で、再雇用拒否は原則として違反です。しかし、再雇用対象者の中には外で生かせるようなスキルがない従業員もいて、企業はそんな先行きのない人を恩情で受け入れているケースも珍しくありません。そういう人を定年前の基本給6割で再雇用するのは、企業にとって重い負担。それが“基準”になると困る企業は、合法的に基本給を下げたり、再雇用を拒否したりする制度づくりを進めるとみられているのです」

■口頭注意はナシ 懲戒処分を厳格運用

 現状、再雇用拒否が認められるケースは、主に「解雇事由に相当するような問題がある場合」と「会社が再雇用で提示した労働条件で合意できなかった場合」だ。前者は「病気やケガ、体力不足などで就業不能」「成績や業務態度不良」「転勤拒否など業務命令違反」「セクハラやパワハラ加害」「犯罪行為」といった懲戒対象になるケースで、後者は「定年前とは別部署での再雇用」「フルタイムを週3回勤務」などで合意できないケースだ。

「再雇用は義務でも、定年前と同じ労働条件にすることは義務ではありません。業務内容や基本給、勤務日数などの労働条件は、再雇用希望者との個別交渉で調整することになっています。それがミソ。企業は、あえて労働条件のミスマッチを浮き彫りにして、再雇用拒否や給与ダウンの根拠とするのです」(新田氏)

 これまでの事情と名古屋地裁の判決を受け、企業は従業員の“あら探し”を進める一方、失点の積み重ねを人事評価に反映し、再雇用時の条件交渉の材料にする制度づくりを整えるという。

「再雇用時の給与水準は大きな問題で、目下、引き下げに向けて検討を進めています」と言うのは広告関係の人事担当者。どういうことか。

「ランチの帰りにゲームをやって30分くらい遅れて帰ってくる社員は珍しくありません。ちょっとした書類の紛失もある。いずれも職務規定上は戒告に該当しますが、現状は周りのメンバーや仕事に影響がなければ、ほとんど口頭注意で済ませています。今後は懲戒処分の運用を厳しくして人事評価に反映させ、場合によっては再雇用拒否の判断材料にするということです」(前出の担当者)

 その担当者によれば、何度も懲戒処分を受ける社員には、“肩叩き”で早期退職を促す仕組みも導入予定だという。懲戒処分の厳格化は、再雇用はもちろん、早期退職の促進にもつながりかねないようだ。

 風邪と偽って仕事をサボったり、遅刻癖が直らなかったりする人は要注意。不適切な言動を繰り返す、酔って粗暴になる、といった人も危ういかもしれない。

 イエローカードの累積でレッドカードとなれば“肩叩き”だし、かろうじてレッドを免れてもイエロー所持で定年を迎えると収入ダウンの材料になるということだ。

項目の細分化でギリギリの合意条件を探る

 では、再雇用を巡っては、ほかにどんなシビアな影響が考えられるのか。新田氏に聞いた。

「まず再雇用を判断するための条件が細かくなります。従来なら、『出勤日』『仕事内容』『勤務態度』だけだったのが、『健康上、支障がない』『働く意思や意欲がある』など項目が細分化されるのが1つ。2つ目は『同じ仕事でも責任が軽くなる』『勤務日数が減る』などの条件変更で給与が段階的に減ることを明文化する枠組みづくりです。そうすれば各項目の評価と合わせて、会社は再雇用時の基本給を合法的に下げられるようになります。会社は、そうやってギリギリの条件を探るのです」

 さらに重要なのが、「会社が提示する労働条件や職務内容に合意できる」という項目だという。

「この項目をわざわざ設けるのは、“赤点社員”の再雇用拒否が狙いになります。会社は、相手が嫌がるような条件を提示し、合意しなければ再雇用を拒否できるのです」

 この影響を受けるのは“定年予備軍”の50代だけではない。20代、30代の若い世代に及ぶという。

「自動的な昇給システムの見直しです。人事や給与における年功序列的な仕組みは少しずつ改善されてきましたが、今なお根強く残っています。しかし、社員の高齢化が進む中で、名古屋地裁の判決を踏襲した再雇用制度が広がると、企業にとって高齢者の賃金負担が重くなります。そこで、全社ベースで定昇廃止などの動きも加速するとみられるのです」

 そういえば、トヨタは来年1月から一律の定昇を廃止し、個人の職能給で一本化する制度をスタートすると報じられた。新田氏が指摘するのはまさにトヨタのような賃金体系で、実力主義による格差がますます進むという。

 評価が高い人は問題ないが、低い人は今後、定年後の未来をどうやって守ればいいか。

「早いうちから個人年金や投資で資産防衛と資産形成を心掛けることです。もうひとつは副業で、会社以外の働き口を確保しておくことが大切でしょう」

 再雇用を考えている人も、転職を視野に入れている人も、サラリーマン人生、とにかく手を抜かないことだ。

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