尼崎で創業108年の町中華 知恵絞り出店した初代店主の気概

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 おおよそ100年前になる。一人の若者が故郷仙台に別れを告げ、神戸に着いた。「生きるため」。東北の若者はひたすら、そう自分自身に言い聞かせる。JRか阪神電車の元町駅から徒歩6分。南に歩くと旧居留地がある。若者はそこへ一歩を踏み込んだ。

 阪神電車の尼崎駅。西改札口を北側に出ると、この街の周辺に住む人なら誰もが知る長い、長い商店街が目に入る。その尼崎中央商店街に入って30秒くらいで右折すると10秒くらいで町中華「大貫」の暖簾が目に入る。

 暖簾をくぐると左右に卓が並んでいる。昼下がりの3時ごろなのに満席だ。

「大貫さん? あそこおいしいで」

 美貌の女性を(わざわざ)選んで店までの道のりを聞いたら、慌ててマスクで口を覆い、すかさず「おいしいで」を連呼した。

 47歳という4代目が店を仕切っていた。「老舗と聞いてます」と問いを投げると「101年、いや違う。創業108年になります」。広い肩幅、分厚い胸板。ついでにデッカイ腹回り……。

「昔から尼崎で?」と聞くと、そこから4代目は店の歴史を噛んで含んで逸話をくれる。

「初代が若い頃、仙台から神戸に来ましてね……」

 神戸に着いた若者は居留地内で商売をする、と決めて乗り込んできた。だが、厚い壁に思い知らされる。

「ここは外国人だけの区域だ。日本人は受け入れない」

 だが若者は知恵を絞る。中国人を雇った。

「これならいいでしょ?」

 相手はうなる。壁に穴があく。日本人で初めての中華の店が誕生した。この若者こそ「大貫」の初代である。

「正しくは“だいかん”なのです」

「店名には意味が?」

 問うと4代目は「初心を大きく貫く。だから大貫。おおぬきと読まれるお客さんもおられます。正しくは“だいかん”なのです」と店名の謂れを時間をかけ、先代に思いを馳せた。

「神戸から尼崎に。これはどうしてです?」

「戦後です。(阪神電車の)尼崎駅から次の出屋敷駅まで長い、長い商店街ができると。なら、その街で頑張ってみるかと。2代目らの発想だったと聞いております」

 創業から108年。山あり谷あり、浮いたり沈んだりを経て「今」があるのだろう。

 ちなみに100年前、1920年ごろのこの国にはどんな出来事があったのか。調べてみると、国際連盟加盟とか、株価大暴落とか、八八艦隊計画第1号長門竣工とか、慶応、早稲田、同志社大開校とか、さまざまの変化がうかがえる。

 4代目に最後の問いを投げた。

「このお店は何が売りです?」

 すると間髪を入れない。

「①そば②茶色の焼き飯。これがうちの二枚看板です」

 この日も卓は客で満席だった。

(平井隆司)

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