<70>勝新太郎は帰国が決まるとなぜか「白いハット」を購入
1991(平成3)年5月11日の午前、勝新太郎はホノルル発羽田行きの中華航空機に搭乗した。そのそばには、若山富三郎に頼まれてハワイまで勝を迎えに来た牛次郎の姿もあった。
「富さんの具合も悪くなっていたし、ケジメも必要だ。人生には一度、区切りをつけなきゃならないこともある。それで『そろそろ帰るか』ってなったんだけど、そしたらなぜか帽子を買わなきゃいけないって言いだした。なんで帰る時に帽子なんか必要なんだって思ったんだけど、店で白い大きいツバのハットを見つけて『これがいい』って。それが実際に機内や羽田で係官に連行されているときにかぶっていた帽子だよ。あれは似合ったし、さすがにかっこよかった。常に自分の見せ方を考えてたんだろうね」
勝の一行は2階のビジネスクラスに陣取った。
「最初は2階の座席を全部買っちゃおうかって話もあったんだ。現地に押しかけてきていたマスコミは毎日、帰国便がいつになるのかをチェックしていた。どうせ一緒に乗り込んでくるだろうけど、せめて機内では静かに過ごしたいって考えていたんだよ。でも、それができなくて、結局、マスコミにもみくちゃにされることになったんだ」