コロナ禍の孤独対策で注目 民間“おひとりさま信託”の中身
菅首相が新型コロナウイルス禍で増える「孤独問題」を担当する大臣に田村憲久厚労相を“任命”。自殺者の増加など、おひとりさまの孤独対策は喫緊の課題だ。民間でも、おひとりさま向けのサービスは増えているが、実際どんなものがあるのか。
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厚労省によると全国の世帯総数(2019年)は5178万5000世帯。うち単独世帯は1490万7000世帯(全世帯の28.8%)で最も多い。40年には全世帯に占める単独世帯の割合が約40%に上るとの推計もある。両親とは死別し、きょうだいや子どもがいなかったり、はたまた肉親と疎遠であれば、老後の生活や死後手続き、相続をどうするかなど不安は尽きない。
そんな中、1年ほど前に三井住友信託銀行の「おひとりさま信託」が登場。生前に死後事務や葬儀埋葬の希望を伝え、信託銀行に費用を預けることで、死亡連絡を受けたあと、契約が実行されるサービスだ。きっかけは、同社の営業担当の発案だという。
「家族向けの営業でご自宅を回っていたときに、死別された方も含めて、1人暮らし世帯が増えていると実感し、遺言や死後事務、葬儀からペットの搬送など銀行でワンストップでできる仕組みを考えました」(同社人生100年応援部担当者)
■30年で34万1000円
この「おひとりさま信託」には「金銭信託タイプ」と「生命保険タイプ」の2種類ある。
金銭信託タイプは、300万円の最低預入金が必要で、信託設定時(3万3000円)と信託終了時(11万円+6600円×契約年数〈1年未満は切り捨て〉)が信託財産から引かれる。そのほかに、葬儀代など、かかった費用が引かれる仕組みだ。
たとえば、50歳独身者が加入し、80歳まで契約した場合、3万3000円+11万円+6600円×30年で基本は34万1000円。残った財産は寄付先を指定しておくこともできる。
生命保険タイプは、預け入れは不要だが、同社の生命保険を契約するのが前提。こちらも信託設定時と終了時の信託報酬の支払いと、死亡保険金受取時に保険契約が複数ある場合、2契約目以降5万5000円の手数料などもかかる。
今、300万円を用意するのはちょっとという人には保険が始めやすいし、どちらも中途解約(一部手数料など元本から引かれる)も可能なので、申し込みへの心理的ハードルは低い。
いずれも、申し込んだらまず「未来の縁―ing(エンディング)ノート」に自身の死後にやってほしい事務手続きを記入。同社に電子媒体として保管され、生前は定期的に見直しや変更ができる。その情報は、同社が設立した「社団法人安心サポート」に共有し、契約者は安心サポートと死後事務委任契約を行う。
スマホのデータ削除からペットの搬送まで
入院先や高齢者施設で亡くなった場合、退院・退所手続きから、健康保険・公的年金などの抹消手続き、公共サービスの解約といった事務手続きをしてもらう。そのほかに、葬儀の希望、訃報の連絡を誰にするか、埋葬(納骨)の場所、スマートフォンなど、デジタル遺品のデータ消去、家財の整理、ペットがいれば託す人への搬送といった手配まで幅広い。ちなみに、最近は、樹木葬や海洋散骨を希望する人も多いそうだ。
「中心は配偶者と死別し、お子さんがいない70、80代の方です。ただ、2~3割は50、60代の単身世帯。将来への備えとして申し込まれています。第三者に依頼したいけど弁護士・司法書士にお願いするよりもハードルが低いという声もあります」(前出の担当者)
一方、「孤独死」対策にもなる生前のサービスも含まれている。自宅で倒れたりして、何日も気づかれなかったという事態を避けるため、SMSを使った安否確認だ。多い人で、週1回連絡を受けて返信がなければ担当者が安否確認を行う。
入院時の身元保証人などを担う「生前サポート」
ここまでが「おひとりさま信託」のサービスだが、生前の入院などが気になる人もいるだろう。NPO日本生前契約等決済機構「Liss(りす)システム」もそのひとつだ。「生前」から「任意後見」(認知症などで判断能力を失ったとき)、「死後」の3つのサポートとメニューは多岐にわたる。
たとえば、「生前事務契約」は、医療受診に身元保証人の代行や、介護保険利用契約の締結・変更・解除などの代理、生活・療養看護などに関わる費用の支払い代行といった日常の事務手続きを任せられる。パートなどの就業時の身元保証人をお願いしたり、ローン・クレジットなど債務の償還代行や不動産の維持・管理といった財産管理も可能だ。
ただし、生前サポートを申し込む場合、前提として、突然判断力が乏しくなった場合の対応のため、「任意後見契約」もセットとなる。申込金は5万円、年会費1万2000円。預託金(生前事務)20万円のほか、入院・入居等身元引き受け保証の依頼は1件当たり5000円、緊急連絡先の依頼は1件当たり3000円などサポートに応じて支払う。全国に拠点がある。
ほかにも、社団法人終活協議会のワンストップ終活サービス「心託」は入会金1万円(年会費なし)で、生活相談や終活相談(将来準備)を無料で利用したり、電話による見守りサービスを提供している。
おひとりさまサービスを活用し、万が一に備えたい。
■ペット信託で愛犬を新しい飼い主に
万が一のときに、残された愛犬の引き取り先に頭を悩ませる人は少なくないだろう。ファミリーアニマル支援協会では、信託制度を使ってペットを引き継げる「ペット信託」を設けている。委託者となる飼い主は、飼育費などを信託財産として専用口座に入れておき、協会に管理してもらう。
そして、生前に友人ら(受託者)と信託契約を結んでおくことで、飼い主が高齢者施設に入ったり、亡くなったときに愛犬を新たな飼い主に引き渡し、エサや予防接種などの飼育費は預かっていた信託から支払う仕組み。
引き取り手の負担も軽減できる。周囲も高齢で引き取り手が決まらない場合、協会が提携する里親探しなどのサポート施設に引き取られる。信託する飼育費は、犬200万円、猫150万円。その他、入会金2万円、登録料2万円、年会費1万8000円が1頭当たり必要となる。コストはかかるが、何もしなければ殺処分の恐れもある。おひとりさまは、ペットの将来も考えておきたい。