梅田と目と鼻の先の老舗商店街(大阪・中津)

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活気を取り戻そうと奮闘した和菓子屋店主の胸中

 梅田から阪急電車神戸線の普通(各駅停車)に乗ると、わずか1分? いや2分? くらいで「中津」に着く。改札口を出ると、目の前に広い公園がある。その公園を歩くと耳に心地いい歌が聞こえた。

 ♪髪の乱れに……

 美空ひばりの「みだれ髪」。細身の女性が感情を込め、静かに歌っている。年の頃なら70代の後半くらい。そう見える。

 歌、お上手ですね。

 声をかけた。若い頃は相当、美人だったろうなぁ。そんな面影がある。彼女は「若い頃は? その“は”は余分だわ」と笑った。

 このあたりに、昭和の面影を残す商店街があると。 ご存じで?

「中津商店街のことね。すぐそこよ」と、指をさした道を歩こうとした時、女性は「あの商店街も私と同じ人生を送ってる。苦労、苦労、苦労のね」と言った。

(???)

「まあ、じっくりと見てらっしゃい」

 それだけを言い、また歌った。

「中津商店街」はちょうど昼食時。買い物客でさぞ賑わいが……と思っていたら、そんな気配がない。恰幅のいいおばさんがいる。だれかとしゃべっている。割って入った。

 えらい静かですね。

「そやろ。昔はな、人であふれてな。そら、ここに来たら衣食のすべてが買えるんやから。そら、賑やかやった。昭和の時代はな。今は……見ての通りや。昭和から続いてる店は5店、いや6店くらいに減ったわ。かつては? 57、58店はあったのにね」

 商店街を往復して歩いた。スマホで測ると1992歩。途中に「加藤万治酒舗」とか「生菓子司・広喜堂」など、木彫りの看板が隆盛だった時代の雰囲気を醸しだしている。しかし、その周辺の疲弊が激しく、見る者の心は落ち込む。

 中津から梅田の巨大タウンには歩いても行ける。阪急や阪神、大丸や伊勢丹の百貨店の豪華絢爛さが中津の商人は憎い。そう思う。

「あのな、小田さんの店に行っといで。ええ話、聞かせてもらえるさかい」

 恰幅のいいおばさんの助言があって「小田さんの店」に入った。「小田さん」とは広喜堂の店主の小田晶史さん(72)のことだ。

 明治生まれの祖父が創業者で実父が2代目。「親父が若くして亡くなって、わしが3代目。今? 商売、順調? そんなん聞く?」

 小田店主と長い話になった。数年前、小田さんは商店街に活気を戻す組織を立ち上げた。“夢をいま一度”の思い。

「夢のままで終わった。そや、挫折や。しかしな、わしはいつも“ええ時ばかりはない。悪い時ばかりもない”と思ってる」

 そして急に太平洋戦争の話になった。

「米国が原子力爆弾を持ってる時、日本は女や子供に竹やり持たせ、アメリカに勝つってやってたんや」

 帰りは中津から梅田まで歩いた。梅田周辺の巨大なビル群。中津はこの巨大都市に叩きのめされたのだ。小田さんの顔が目に浮かんだ。

(平井隆司)

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