金曜夜に10年続いた反原発 官邸前デモのレガシーとは何か

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 社会現象にもなった首相官邸前抗議デモが3月末で活動を休止する。2015年からほぼ毎夕、現場に足を運んで写真を撮り、声に耳を傾けてきたフォトグラファー薄井崇友氏はどう見ているのか。

 ◇  ◇  ◇

 2011年に発生した福島第一原発事故以降、脱原発運動の一翼を担ってきた「首都圏反原発連合」(反原連)が、本年3月26日に迎える通算400回目の抗議行動で活動を休止する。

 反原連は12年3月から毎週金曜日の「原発再稼働反対! 首相官邸前抗議」(金曜デモ)を基軸に活動し続けてきた。12年6月から7月には福井県・大飯原発(関西電力)再稼働に反対する20万(主催者推計)の人波が首相官邸前を覆い尽くし、同年8月には野田佳彦首相(当時)に反原連メンバーらが面談し脱原発を直接要求したことは記憶に深い。

 15年頃までは毎週1000人を超える参加者があったが、安保問題や森友・加計問題など市民運動が分化したためか、近年は減少傾向が続いていた。

■参加者減少の影響大か

 昨年10月、反原連の公式ホームページに活動休止についてステートメントが掲載。休止の理由としてマンパワー維持の限界と活動資金難があげられている。数年前には活動延長のためのドネイション(寄付金)プロジェクトなども実施していたが、15年以降の参加者減少の影響が大きかったことは想像に難くない。 

 3月7日、反原連は「最後の国会前集会」を開催。中心メンバーのミサオ・レッドウルフさんは参加者に向けて「活動は休止するが解散はしない。原発ゼロが政策で決まるまでは、"何かあれば"アクションを起こせる状態をキープしていく」と訴えた。

金曜デモとは何だったのか

 毎週金曜日。首相官邸前や国会議事堂正門前。夕方6時少し前になるとスタッフがステージを設営し始め、参加者が一人また一人と集まってくる。スピーチやコール(かけ声)をするだけではなく、定位置で音楽を流したり合唱したり、ポスターセッション(一枚のポスターで内容を伝えること)をしたりする人たちもいた。「原発のない世界」を目指すという一点で繋がり、この場に集まり抗議の声を上げてきた。

 活動当初から金曜デモに参加してきた60代の男性は、「脱原発には右も左もない。日の丸を掲げる人、左寄りの新聞を手に持つ人。ここではそれぞれの立場で自由に脱原発に声を集めることができた」と反原連の運営を評価する。

 反原連の金曜デモは何かあれば「官邸前、国会前に集まり抗議の声をあげる」という抗議のフォームを作り上げた。一般市民が官邸や国会で起きていることに、生活の場から出ていって抗議することができる"開かれた場"を手に入れたのだ。それは2015年のSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動、16年8月に解散)の活動などにも拡大し、今では多くのグループや個人がそれぞれの問題意識でデモをしている。

 市民が政治に直接要求する民主主義の新しいツールを手にしたことに、多方面から賞賛の声があった。官邸前にいた70代の女性も「これまでは政治に声を出すことや自分の意見を言うことはなかった。金曜デモで意思表示していいことに気づいた」と語っていた。

 同じような意見はいくつも聞いた。その意味においても新たな市民運動・民主主義運動であったのは間違いない。

野党共闘の土台につながった

 さらに次の重要なレガシー(遺産)も見逃せない。

 福島原発事故以前の反原発運動には組織間に対立があった。しかし金曜デモが全国各地に波及したことで、反原連が基礎とした毎週顔を合わせる"行動の力"が、その壁を溶かした。今各地で開かれる集会には多数の賛同団体が連名していることが多く、鹿児島県では100に迫る県内組織が共闘した。これも反原連の重要なレガシーの1つだと筆者はみる。

 野党共闘は15年にSEALDsがリードして多くの市民が国会前に集まり「野党は共闘」「選挙で変えよう!」とスローガンを掲げ、野党がそれに応える形で実現した。

 だが、そのとき運動の現場では金曜デモによってすでに野党間の対立は解消され、共闘できる環境が準備されていたと筆者は考えている。この点については福島原発事故以前から反対運動を継続している原発立地県からも同様の証言をいくつも聞いている。

活動休止には疑問も

 一方で、反原連の活動休止には疑問の声も上がっている。いま脱原発運動は難題に直面しているからだ。「汚染水」「除染土」「老朽原発20年延長」に加え、昨年秋に発足した菅政権がカーボンニュートラル(脱炭素社会の構築)を掲げるや、原発推進派は便乗しCO2を出さない発電として「原発の新増設」に言及しているからだ。「産経新聞」(2月26日付)のインタビューでは、関西電力の森本孝社長が小型モジュール炉(SMR)」開発の方針も語っている。

 新増設は原発を再稼働させてきた安倍政権でさえ民意を恐れて二の足を踏んできた。それだけに菅政権では"何かが起きてしまう"状況と見ることもできるのだ。

 このような状況で脱原発運動の重要な「一角」が活動休止をすることに疑問の声があって不思議ではない。今こそ「原発推進に対峙し踏ん張るべき時ではないのか」、「活動資金の不足は予算に見合った内容や頻度で継続できるのではないのか」という声も理解ができる。

■運動はどこかで終わり新たに始まる

 これに対し、12年に野田首相に直接要求をした反原連のメンバーの一人である原田裕史さんは、「今のやり方が終わるだけです。別のやり方が始まる。始めなくてはならないでしょう!」と話す。市民運動との関わりが深い社会学研究者も「運動はどこかで終らないといけない。終わることで活動の成果・問題が客観的に見えてきます。それで次に進めるのだから」と話していた。

 多くのレガシーがあるだけに金曜デモの休止には相反する意見もあって当然なのだ。

 日本世論調査会の調査では76%が脱原発など、今や原発反対が多数。自然エネルギーへの転換も世界の潮流である。にもかかわらず菅政権はわずかな民意をよりどころに原発推進を続けている。野党四党が18年に提出した原発ゼロ法案も棚ざらしされた。

 反原連は今後、ツイッターなどSNSとオンライン配信で活動していく方針。昨年からはウエブで音声メディア「MCAN podcast」を新たにはじめた。ウエブは地方や世界の脱原発派とも繋がれる。これが昔のラジオ深夜放送のように、社会に変化をうながすことができたらと、筆者は期待している。
 
(文・写真=薄井崇友/フォトグラファー)

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