山口真由さん 多忙な母が日曜日に焼いてくれた手作りピザ
山口真由さん(信州大特任准教授、米NY州弁護士)
「羽鳥慎一モーニングショー」や「ゴゴスマ」などワイドショーのコメンテーターとして活躍する信州大特任准教授の山口真由さん。現代の家族問題をテーマにした「『ふつうの家族』にさようなら」を上梓したが、思い出すのは医師として働く母が休日に生地から作ってくれたピザ……。
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実家があるのは札幌市南区の真駒内公園が近い、自然豊かな住宅地です。冬は雪が降るので、小学生の時は学校にスキー板を持って登校することもありましたが、面白かったのはポリの米袋で滑ることでしたね。米袋をお尻に敷いて公園の凍った階段をダンダンダンと滑って、滑った先の池の柵を頭を下げて通り抜けたり……そんな子供時代でした。
両親とも医者で、内科医の母は家から車で、整形外科医の父は勤務するクリニックに自転車で通っていました。母は仕事があるのでとても忙しくしていました。私と妹が子供部屋で勉強していると、18時ごろ、玄関のドアがバーッと開いて、その足で台所へ。すぐに戦闘態勢ムードです。
手際はよかったですね。トントントンと納豆サラダを作っていたかと思うと、みんなで取り分けられるように大皿料理、味噌汁……同時にバッと出てきました。
両親はこだわりがありましたね。父はうんちくが好きで、北大路魯山人の話をしたり、納豆は右に7回、左に8回かき混ぜるとか。母はひたすらかき混ぜる派でしたけど。母にはご飯は30回噛みなさいって言われていました。30回噛まずにのみ込んだら、次に何が起きるのかと思うと怖かったですね(笑い)。
生地から練って焼いてくれた
母の料理で好きだったのは時間がある日曜に焼いてくれるピザです。生地から練って焼いてくれました。粉を練って日当たりがいいところに置いて、発酵させる。それからしばらくして生地をのばすわけですが、母は投げるんですよ、空中で手を回してのばす!
うちではNHKの「きょうの料理」とかフジテレビの「料理の鉄人」をいつも見てたんです。イタリア料理の山田宏巳先生が「ピザに魂を売った男」と話題で、母はそれをマネしてたみたい。「ピザに魂を売った」なんて言いながらやってました。
生地にトマトソースを塗り、具はとろけるチーズ、サラミ、ピーマン。私はサラミが大好き。サラミを切る人は「源泉徴収」って言って、生地にのせながら、つまんで食べちゃうんですよ(笑い)。
大きさは直径20センチ、焼くのは4枚くらい。私はピーマンが嫌いなので片方に寄せて父に食べてもらってました。我が家にとって日曜のピザは家族で手巻き寿司をやるのと同じイベントでした。
財務省時代は、母と妹がジップロックに入れた餃子をしょっちゅう送ってくれました。焼いてもスープにしてもいいからと言って。アメリカにいた私を母が訪ねてきた時はスーツケースの半分が食料でした。カレー、乾めん、めんつゆ、ダシとかも。向こうのは高かったですからね。
一時期、韓国スーパーでインスタントラーメンの5個セットを買ってきて毎日食べてたら、急に胸が痛くなって3食食べたらダメなんだと反省しました。母はきちんと食べていないのを知ってたんですね。「うどんくらいは作れるでしょ。食べたものが自分の髪とか体になるのよ」って。
今は妹と住んでいて、彼女に「これを切って」とか指示されながら、一緒に料理をやっています。うちの妹、結構、厳しいんです(笑い)。
2月に「『ふつうの家族』にさようなら」という本を出しました。うちは普通の家族だと思うけど、留学している時は男性に性別を変えて子供を育てている友人もいました。それはそれでいい家族と認めたいですね。
今は社会の分断が進んでいますが、だれにも故郷があるし、今いる都会の風景もある。そういう中に共通するものを見つけられると思います。郷愁、懐かしいなというぬくもりとともに思い出す食卓の風景ってありますよね。
(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ)
■レシピ<生地1枚分>
強力粉、薄力粉各50グラムをボウルで混ぜる。ぬるま湯にイーストと砂糖を入れて混ぜて発酵させ、両方を合わせる。水を入れて練り、オリーブオイルを加え、ひとまとまりになったらボウルに入れ、ラップをかけて、日当たりのいいところで2倍ほどの大きさになるまで発酵させる。生地をのばし、トマトソースを塗り、サラミ、ピーマン、とろけるチーズを散らし、200度のオーブンで10分焼く。
▽山口真由(やまぐち・まゆ)1983年、札幌生まれ。2006年東大法学部を「全優」で卒業、財務省主税局を経てハーバード大ロースクール修了。ニューヨーク州弁護士登録。