元WHO専門委員・左門新氏「コロナ対策は95%達成で十分」

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左門新(医学博士、元WHO専門委員)

 新型コロナウイルスが再び猛威を振るい始めている。感染拡大の第3波が収まらないうちに第4波に突入。従来株よりも感染力が強い変異株に置き換わったためとみられている。緊急事態宣言に準じる「まん延防止等重点措置」の適用対象は6都府県(4月20日からは新たに4県追加)に拡大したが、感染爆発を防げるのか。ワクチン接種は遅れに遅れ、なす術がないのか。「感染症予防BOOK」(三笠書房)をまとめた元WHO専門委員に聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ――変異ウイルスによる感染が急速に広がっています。

 この1年余りで、すでに数百以上の変異が報告されています。新型コロナはRNA(リボ核酸)と呼ばれる遺伝情報を持っていて、ヒトなどの細胞に入り込んでこの遺伝情報をコピーして増殖するのですが、コピーミスをすると変異が起きる。ですから、ある一定の確率で新たな変異ウイルスが発生しているのです。感染力が強まったのか、重症化を引き起こしやすいのか、ワクチンが効きにくいのか。性質に大きな変化を与えるほどの変異が起きたのかどうかが重要です。

 ――英国型、南アフリカ型、ブラジル型のほか、フランスではPCR検査に反応しない「ブルターニュ型」が見つかり、国内では「日本型」への懸念が高まっています。

 国内で新たな変異ウイルスが発生している可能性はありますが、英国型や南ア型、ブラジル型に匹敵するような性質とはまだ言えないと思います。というのは、世界と比較すると日本では爆発的な感染はまだ起きていない。変異は増殖に伴う現象なので、爆発的感染が発生し、ウイルスが爆発的に増殖した地域ほど変異の回数が増えるため、性質が大きく変わったウイルスが出現する。英国が分かりやすい例です。

 ――第3波から息つく間もなく、第4波が立ち上がりました。

 昨年5月に米ハーバード大の研究チームが発表した論文でシミュレーションした通りの経過をたどっています。治療法が確立される、あるいは集団免疫を獲得するなどの手だてを得られない限り、外出規制を緩めればすぐに次の波に襲われ、それを何度も何度も繰り返すだろうと分析していました。感染者が増え始めたら強い対策を取り、流行が底を打ってきたら少し緩めて経済を動かす。収束の見通しが立たない中では、感染のピークを少しでも低く抑えるためにこれを繰り返すほかありません。経済を止めず、爆発的感染を招かないためにはどうすればいいのか。ポイントは「100%の対策」を取ろうとしないこと。95%を達成すればいいのです。

 ――どういうことですか?

 自然界、特に医学領域の現象の多くは「正規分布」のようになります。新型コロナの場合、横軸を月日、縦軸を新規感染者数にしたグラフが似たようなカーブを描いている。テレビなどで紹介される昨年1月以降の感染状況の推移を表したグラフをよく見ると、3つの正規分布が大まかにつながっていることがお分かりになると思います。横軸を潜伏期間にした場合(別表)、95%を目指すべきという理由が分かりやすい。約68%が潜伏期間の平均+-1標準偏差内の5~6日間、約95%が+-2標準偏差内の3~8日間に収まる。1週間超は5%前後。濃厚接触者や水際対策で100%の感染防止を目指せば隔離期間は最長の2週間となりますが、予防率を5%ほど引き上げるために2倍の負担をかけるのは得策かどうか、ということなんです。正規分布を見れば、1週間でも十分に感染防止策が機能することが読み取れる。そもそも、新婚旅行でも身内の葬儀でも日本の社会は1週間休むのがせいぜい。大きな目標を掲げてなし崩しになってしまうよりも、現実に即した対策をキッチリ取る方がよほど効果的です。ソーシャルディスタンスも同様。各国で違いがあり、日本は2メートルですが、ドイツは1.5メートル、米国は1.8メートル(6フィート)。WHOは1メートルを推奨しています。

 ――3密回避は世界共通なのに、なぜ距離はバラバラなんですか。

 新型コロナはほとんどが接触感染と飛沫感染で広がります。飛沫の飛距離も正規分布で約95%が1メートル以内、約2~5%が1~2メートルとの調査結果があるため、目安にバラつきがあるのです。もっとも、飛沫はおおむね1.5メートルしか飛ばないので、それ以上の距離を取っているか、対面で向き合っていなければ感染は防げます。日本は飛沫の最大飛距離を前提に律義に100%予防のソーシャルディスタンスを呼びかけていますが、これは難しい。WHOが1メートルとしているのは、2メートルでは日常生活が成り立たない国や地域があることが分かっているからです。感染対策は95%の1.5メートルで十分なんです。

ワクチンが浸透してもコロナ撲滅は未知数です

 ――接触感染についてはどうですか? 改めて気を付けるべき点は。

 やはり自分以外の不特定多数の人が触れるものは感染源になります。ドアノブ、手すり、電車の吊り革、エレベーターのボタン、電気のスイッチ、テーブル、イスの背もたれ、靴べら、スマートフォンなど。触ったら、すぐに手指を消毒する習慣をつけましょう。オススメなのは、化粧品用のアトマイザーなどのスプレー容器に消毒用アルコールを入れて常備し、何かに触れたらその都度、左右の指先にシュッと吹きかけて乾くまで15秒ほどこする方法です。こまめな手洗いは重要ですが、必ずしも顔を触ってしまう前にできるとは限らない。爪の間から手首までせっけんで念入りに洗うよう言われていますが、これは医療や食品従事者などが行う手洗い法で、毎回そこまでやる必要はありません。それよりも、まめに手指だけ洗うか消毒した方がいい。

 ――世界に先駆けてワクチン接種をスタートし、全体の接種率が5割に迫る英国では、新規感染者も死者も劇的に減少しています。

 新型コロナ収束に向けて、いま唯一期待が持てるのがワクチンですよね。ただ、コロナを撲滅できるかは未知数です。毎年流行する季節性インフルエンザの場合、鳥や豚からヒトへ感染するA型、ヒト―ヒト感染するB型がある。オランダやデンマークなどでミンクからヒトへ新型コロナが感染したとされる事例がありました。ミンクはイタチ科で、日本ではペットとして飼われているフェレットが同じ分類です。新型コロナのヒト―ヒト感染がいったん収束しても、インフルA型のように家畜などの動物内で変異して人の流行が再燃する可能性はある。コロナ禍に直面したことで、感染予防策に意識が高まっている今だからこそ、ほかの感染症にも目を向けてほしい。特に子宮頚がんです。

 ――厚労省はHPV(ヒトパピローマウイルス)予防ワクチン定期接種の勧奨を2013年に始めましたが、副反応が疑われ、2カ月ほどで差し控えになりました。

 日本では年間約3万人に子宮頚がんが見つかり、およそ3000人が死亡しています。性行為を介して男性が女性にうつしているケースがほとんど。性行為経験のある女性は生涯で50%以上が感染しており、男女ともに予防接種をする必要があります。副反応については、17年に厚労省専門部会が因果関係を示す根拠は報告されておらず、機能性身体症状と考えられるとの見解をまとめたのに、なぜか広く公表されていない。WHOが「一刻も早く予防接種推進を再開すべき」と強く勧告しているにもかかわらず、そうした動きはありません。20年まで接種勧奨を取りやめた結果、子宮頚がん患者は年間約2万5000人ペースで増え、死者もおよそ4000~6000人増加すると試算されています。一方、世界では患者も死者も減少している。欧米などでは思春期の男女を対象に接種していて、接種率は7~9割に達します。男女とも接種率が7~8割超になれば集団免疫が形成され、感染リスクが下がるからです。豪州では十数年後の撲滅が視野に入っている。新型コロナにばかりのめり込まず、幅広くバランスの取れた感染症対策を行うことが求められています。

(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)

▽左門新(さもん・あらた) 医学博士、公衆衛生学修士、疫学修士。小児科専門医、認定産業医。WHO(世界保健機関)の元専門委員。国立大医学部卒業後、国内の奨学金制度でハーバード大学院へ留学し、公衆衛生学と疫学を専攻。英国奨学金で英バーミンガム大医学部へ研究留学し、予防医学を研究。都立産院で小児医療、神奈川県保健所で結核などの感染症業務、国立小児医療研究センターで予防医学に従事。自治医科大講師、産業医科大教授として小児科、公衆衛生、産業医学領域の教壇に立つ。

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