ウイグルは観光客向けの“テーマパーク” 日本人写真家語る

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 米中対立の焦点に急浮上した中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区(以下、新疆、ウイグル)。日本人には馴染みが薄い地域だが、前回に続き留学経験もあり、10年以上通い続けているフォトジャーナリストの川嶋久人氏に現地の様子を前回に続き伺った。

■チベット弾圧をした陳全国が新疆に着任

 ――昔から市民への監視は厳しかったのでしょうか。

 2008年の北京オリンピックを経た翌09年の「ウルムチ事件」後、中国政府による監視がとくに厳しくなってきたと聞いています。しかし、いまのように国際的批判を浴びる状況になったのは、16年8月にチベット弾圧で「辣腕」を振るった陳全国氏が新疆の共産党委員会書記に着任してからです。彼は「一帯一路」政策を進めるために、「テロ」対策と称してウイグル人弾圧を強行してきました。

 ――「一帯一路」は中国が欧州にまで広げるアジアの経済圏構想ですね。

 はい。新疆はモンゴル、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタン、インドと接して、チベット自治区の北に位置します。インド、パキスタンと領有権を争うカシミールの中国実効支配地域の大部分も新疆に属します。また新疆は、石油も採掘され、地政学的に中国政府にとって非常に重要な土地であるわけです。「一帯一路」建設には民族問題のくすぶる新疆の「安定」が絶対なんです。

モスクが壊されイスラームとは無関係の店舗に

 ――陳全国が着任してからのウイグル自治区の様子は?

 18年や19年に行ったときには、モスク(イスラーム礼拝所)もかなり破壊され、イスラームとはまったく関係のない店舗に改装されていました。それでもモスクはまだ残っていて礼拝も行われているのですが、モスクの周囲には警察が張り込んでいます。「アッサラーム アレイクム」というイスラームの決り文句のような挨拶も人前ではもうできません。

 女性でスカーフを頭に巻いている人もほとんどいませんし、特に若い女性でスカーフを巻いている人は皆無です。2018年には改正宗教事務条例が施行されてからイスラームへの規制は強まっています。さらに強制収容所とも言える再教育施設に入れられているためか、街の人口が減少していて、閉鎖した店舗も増えていました。

消毒されるウルグイ文化

 ――ウイグルの伝統的な文化はほぼなくなってきている?

 ウイグルの文化はあるにはありますが、“消毒”されたものになっています。街が観光客向けにテーマパーク化していると言ったらいいでしょうか。市民には笑顔がありませんし、ここ数年、漢人の観光客が増加しています。漢人が経営する豚肉料理のメニューがある料理店で働くウイグル人もいます。豚のイラストが描かれたTシャツを着るウイグルの若い女性もいます。

 御存知の通り、ムスリムは豚肉を食べるのを禁じられているのにですよ。本人の意思に関係なく豚肉を食べざるを得ない環境になってきているのかもしれません。あと、以前はウイグルの食堂にタバコ灰皿は置いていなかったのに、いまでは灰皿を置く食堂が増えていますね。これも「中国化(漢族化)」の影響でしょう。

バザールからも人が消えた

 ――戦後、占領された日本が急速にアメリカナイズされていく様子と似ているのかもしれませんね。

 確かに敗戦後の日本のありように似ているかもしれませんが、それ以上に、日本植民地時代の朝鮮半島のありように似ているのではないかと思います。在日コリアンの友人や南朝鮮(現在の大韓民国)出身の祖父をもつ中国の朝鮮族出身の友人にウイグルの写真を見せたら、日本植民地下の朝鮮半島の状況に似ていると言われました。そのとき同化政策により「民族」を奪われたのは、時代は違えど、ウイグルも朝鮮も同じなのだと気づかされました。そして一方で新疆には、このような同化政策を含め新疆社会のありように疑問を抱いている漢人の若者も少なからずいると思います。区都ウルムチのバーで日本語の話せる漢人の若者とお酒を飲んでいたら、「正直俺たち漢人は、ウイグル人にどう見られているの?」と訊かれました。

 ――現地の知り合いの様子に変化はありましたか。

 2019年にウイグルに行ったときは、知り合いに会ってもよそよそしくされました。以前は招いてくれた自宅にも招かれなりくました。バザール(市場)にいる知人に、数年前に撮影したポートレート写真を渡しに行ったのですが、彼はそこにはいませんでした。職場の同僚に、彼はどこに行ったのかと訊いても、答えてくれないという状況です。強制収容所にいるのか……ともかく良くない状況なのだということは察しました。とても活況のあったバザールも賑わいがなくなっていました。

「漢人に期待したい」

 ――ウイグル自治区独立論もいろいろな人が主張していますよね。

「独立」が唯一の解決策なのかは議論があるところです。私は以前ウイグルに関する新聞のインタビューで、ウイグルが自分たちで自分たちのことを決められる環境になってほしいと述べたことがあります。

 これに対し、ウイグルは中国から独立しなければならない、独立以外の選択肢はあり得ない、独立以外の意見は中共(中国共産党)寄りだと、ネット上で当事者でもないのに口角泡を飛ばすように反論する日本人がいました。彼らの発言を聞いていると、結局のところ、意見の押し付けという意味では極めて全体主義的というか、中国共産党的だなと感じました。多くのウイグル人が独立を求めているのは事実ですが、その一方で独立ではなく、以前の新疆ウイグル自治区にもどってくれればいいというウイグルの友人もいます。外からウイグルの独立を煽る人は往々にして、ウイグルを「反中」の道具に使っているだけなのだと私は感じます。

 ――外からの思惑によってますます混沌としてきたウイグルですが、今後どうなると見ていますか。

 習近平政権が続くかぎり、この状況は改善しないのではないでしょうか。かりに制度として、状況が悪くなる前と同程度の自由を回復できたとしても、一度植えつけられた恐怖はそう簡単には拭えないと思います。まわりの目を気にして、心から笑える日々を送ることは難しいだろうなと想像してしまいます。欧米列強国による中国批判もどこまで効果があるのか疑問です。

 と、そんなふうに、すごく絶望的になってしまうんですが、その一方で、ウイグル人が加害者と敵視している漢人に、この状況を打開してくれるのではないかと期待しているところがあります。私のまわりには、中国政府に限らず国家権力に忖度をしない漢人の友人が少なからずいます。なにより彼ら漢人は、独裁政権を批判し続けた作家の魯迅(1881年〜1936年)が亡くなったとき、葬列の先頭に「民族魂」と大書した旗を立てた民族です。ですので私は、まだ希望は捨てていません。=終わり

(聞き手=平井康嗣/日刊ゲンダイ)

▽川嶋久人(かわしま・ひさと)1986年生まれ。フォトジャーナリスト。早稲田大学卒業後、新疆大学に留学。2009年の「ウルムチ事件」以降、継続的にウイグルを訪問。

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