自転車事故は無保険だと「実刑」「無職」になる恐れ…4割が未加入という現実

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 コロナ禍の移動手段として自転車が人気だ。密集した電車やバスを嫌って、通勤に利用する人も少なくない。そんな中、自転車ユーザーには、ショッキングな判決が15日、横浜地裁であった。自転車で走行中に歩行者と衝突して重傷を負わせたとして、重過失傷害罪に問われた女性に「過失は重大。被害結果も重い」と禁錮1年4月、執行猶予3年が言い渡されたのだ。

 ◇  ◇  ◇

 事故が起きたのは昨年11月16日午後3時ごろ、JR北鎌倉駅近くの見通しのいい丁字路だった。幼稚園で次男を引き取った被告の女性(39)は、電動アシスト自転車の後ろに乗せ、時速15キロほどで現場の道路へ。この日初めて自転車で通る道だったという。

 被害女性(65)は、歩行者用のボタンを押して青信号を確認してから横断。信号は、事故発生10秒前に黄色、3秒前に赤に変わったとされる。

 被告の女性は話しかける次男に気をとられ、顔を右に向け、信号が目に入らず、被害女性に気づいたのは衝突現場のわずか1メートル手前。ブレーキが間に合わず、衝突して、被害女性は転倒。脳挫傷の大ケガで、事故から8カ月が過ぎた今もめまいや頭痛があり、高次脳機能障害が残る可能性があるとの診断を受けているという。

 弁護側は「罰金刑相当」を主張したが、横浜地裁は「罰金刑相当とはいえない重大な過失」と判断。禁錮1年4月、執行猶予3年が言い渡されている。

 この判決で重要なのが「重大な過失」。今回は育児中の母親の行動に重大な過失があったが、だれしもやりかねないことがあるという。弁護士の山口宏氏が言う。

「今回のケースは、母親が信号を見なかったことによる注意義務違反が重過失傷害罪と認定されました。一般の交通事故は、過失傷害罪や過失致死罪が適用されていましたが、最近は重大な過失があると、より重い重過失傷害や重過失致死が適用される傾向があります。では、どんなことが重大な過失になりうるかというと、スマートフォンを使用しながらの、ながら運転が典型。クルマはもちろん、自転車のながら運転も厳罰化の流れなのです」

ながら事故で衝突した女性死亡…判決は禁錮2年、執行猶予4年

 今から4年前、ながら運転の事故として大きく報道されたケースがある。

 当時女子大生(20)は2017年12月7日、午後3時15分ごろ神奈川県川崎市の商店街の歩行者専用の市道で、電動アシスト自転車を運転中に女性(77)と衝突。2日後に死亡させた事故だ。

 女子大生は、事故前の少なくとも30秒間、イヤホンで音楽を聴き、右手で飲み物を持ちながらハンドルを握り、左手でスマホを操作しながら走行。メールのやりとりを終えてズボンのポケットにスマホをしまおうとしたことに気を取られ、事故を起こしたと認定されている。

 弁護側は「悪質性の低い脇見運転」を主張したが、横浜地裁は「前方を注意しないばかりか、危険を察知してもブレーキをかけられない状態だった。脇見運転と矮小化する主張は論外」と退けている。重過失致死罪で判決は禁錮2年、執行猶予4年だった。

 女子大生の運転ぶりを危なっかしく思うが、耳にはイヤホン、手にはスマホで動画を見ながら自転車に乗っている人も見かける。先の女性2人のようにちょっとした不注意で大事故を起こすリスクはゼロではない。

■指導警告は約144万件

 警察庁の調査によると、昨年の自転車関連の事故件数は6万7673件。件数そのものは1万2800件減り、減少傾向だが、クルマなども含めた全交通事故に占める自転車事故の割合は逆に増加傾向。昨年は、統計のある1999年以来過去最多の21.9%だ。

 そんな状況を受けて警察は、自転車の運転への取り締まりを強化。信号無視や一時不停止など交通違反には、指導警告を行い、悪質なケースは検挙している。

 昨年交付された指導警告票は約144万件で、昨年の自転車事故件数の約21倍。検挙件数は約2万5000件だから、事故リスクの高い人がかなりいることが分かるだろう。

「オレは大丈夫」という気の緩みが思いもよらぬ大事故を招くと、社会的に取り返しのつかないダメージを受ける恐れもあるという。

「鎌倉と川崎の女性2人は執行猶予がつきましたが、事故の悪質性などによっては執行猶予がつかず実刑の可能性もありえます。サラリーマンがそうなると、前科1犯で仕事や家庭を失いかねません。ちょっとした気の緩みから生じた事故によって、生活が一変しかねないのです」(山口氏)

 川崎の女子大生に執行猶予がついた理由は3つある。①家族が加入する損害保険で遺族への賠償が可能だった②公判で強く謝罪の気持ちを示し反省していた③大学を中退するなど社会的制裁を受けた――。

「執行猶予がつくかどうかは、事故の悪質性だけでなく、被害者への賠償が可能かどうか、それによって示談が成立しているかどうかが、影響することが多い。元女子大生は家族の保険によって救われましたが、一般論として死亡や後遺症が残る重大事故の加害者に賠償能力がなく、被害者との示談が成立しないと、実刑になりやすい」(山口氏)

 au損保は3年連続で自転車保険の加入状況を調査。昨年から義務化された東京の加入率は62.7%で、前回から12.1ポイントの大幅アップだが、それでも4割近くは未加入だ。全国的にも加入率は6割前後で、まだまだ十分ではない。

〈表1〉は、自転車事故で高額賠償が出されたケースだ。9000万円台が2件あり、一般的な社会人だと保険がなければ到底カバーできない。

■悪質だと自動車免許停止も

 民事での責任が被害者への損害賠償、刑事の責任が懲役や罰金などの刑事罰になる。事故によっては、もう1つ行政上の責任を求められることもある。

 11年5月12日、大阪の国道25号で自転車の男性(61)が安全確認をすることなく車道を右から左に横断。片側2車線の右車線を走っていたワゴン車が自転車を避けようと左車線へ。その余波で、左車線にいたタンクローリーがワゴン車を避けようと、左側の歩道に乗り上げたため、歩行者2人が死亡した。ワゴン車とトラックの運転手は不起訴。大阪地裁は自転車の男性が誘発したと認定し、禁錮2年の実刑判決を言い渡している。

 事故の捜査過程で男性は「これまでにも同じような横断を何度もしている」と供述。これを重く見た警察は、「車でも同じような無謀運転を行う可能性が高い」と判断し、男性の中型免許について180日間の免許停止処分を決定した。

「道路交通法では、自転車の事故でも、危険な運転と認められると、自動車免許の停止処分が行えると規定されています」(山口氏)

 指導警告を受けた144万件は事故予備軍とすれば、検挙された2万5000件は悪質事故での免停リスクを抱えているといっていいかもしれない。

 自転車は免許が不要だが交通ルールを守るのがマナー。走行は車道の左側が原則で、歩道を走るときは車道側を。並走・2人乗り・逆走は禁止だ。これらを基本に〈表2〉の主なルールも頭に入れて安全に運転しよう。

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