東日本大震災から14年…居住者が180人に増加した福島県双葉町の「光と影」(上)

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 東日本大震災から11日で14年──。原発事故が起きた福島県ではいまだに多くの人が県内外で避難生活を送っている。当初、全町避難を余儀なくされた双葉町では、最初に避難指示が解除されてから、今月4日で丸5年となった。居住者は徐々に増えているが、まだ180人程度。震災前の約7000人のわずか2%だ。町はどんな様子なのか。日刊ゲンダイ記者が現場を歩いた。

  ◇  ◇  ◇

 訪ねたのは今月上旬の某日。町を南北に貫く目抜き通りの国道6号を車で北上し「双葉厚生病院前」の交差点を右折すると、施設の白い外壁が目に入る。かつて、町の中核病院を担っていたはずだが、今は至る所に雑草が生え、駐輪場の柱は茶色くさびついている。隣接する福祉施設も雑草が茂り、人の気配はない。

 時折、過ぎゆく巨大なトラックが轟音を立てる他は、風に揺られた枯れ草がカサカサと音を鳴らすだけで、静寂に包まれている。放射線量を測定するモニタリングポストに表示された赤いデジタル数字が、記者の心をザワつかせた。

「2時46分」で時が止まった町

 さらに6号を北に進み、駅方面に向かう県道を左折。すると、ベージュの外壁に「双葉町消防団第二分団」の文字が張られた建物が見えるが、金属製のシャッターが痛々しげに歪んでいる。これは、発災直後に救助に向かおうとした団員が、停電で開かなくなった電動シャッターを強引にこじ開けたために生じたものだそう。ガラス戸を隔てた室内には消防用のヘルメットや軍手が転がっている。外壁にかけられた時計は発災時の「2時46分」をさしたままだ。

 時が止まってしまったかのようだが駅付近の様子はちょっと違う。こげ茶色の細長い短冊を重ね合わせたような外壁の駅舎は今風のデザインで、向かいに立つ町役場も真新しい。バス停には数人の乗客が待機。確実に人の存在を確認できた。

 

「観光」に活路

 さらに、30秒ほど歩くと水色を基調としたアート作品が描かれた建物があり、その一画で2~3人の年配男性が談笑していた。彼らの目当ては、2月23日に当地で開店したコーヒー焙煎所「open roastery Alu.」がテイクアウト用に販売するコーヒー。皆、提供されるまでの間、「今日は暖かいね」などとおしゃべりしており、楽しそうだ。店主の深沢諒さん(28)が言う。

「私は秋田県出身なのですが、学生時代から日本一周旅行などをする中で、福島・大熊町出身の人と知り合い仲良くなりました。そうしたことから福島に魅力を感じ、浜通りのどこかでコーヒー焙煎所を営みたいと考え続けてきた。『復興』と言うと大袈裟ですが、多くの方が集まってくれるような店にして、地域づくりに貢献できたらいいなと思っています」

 もともと東京・八王子で生まれ育ったが、原発事故を機に復興支援団体の職員となり、その後、町内出身の妻と結婚。現在、家族と共に双葉町で暮らす山根辰洋町議(39)にも話を聞いた。一般社団法人「双葉郡地域観光研究協会」の代表理事でもある彼にとって、町の再生のカギは「観光」だという。

「観光という産業が培ってきたノウハウは地域再生に役立つと思っています。何もない土地を使って商品化して価値を生み出す。そのためには地域の魅力を発掘しなければなりません。さらに外の人に向けてプロモーションする。すると必然的に双葉町の情報は外に拡散されるでしょう。そして、実際に来てくれた人がさらに情報を発信。それが、原発事故といったネガティブ情報を払拭して、地元の方たちの営みを得ることにつながるのではないかと思います」

 時が止まった町には、光が見えつつあるようだが、影の側面もある。次回は、影に「焦点」を当ててみようと思う。

(小幡元太/日刊ゲンダイ)

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