「霞町三○一ノ一」渡辺ひと美さんの巻<5>
オステリア クロチェッタ(東京・四ツ谷)
イタリアンは、肉や野菜などをトマトで煮込んだり、ピザをはじめチーズで焼いたりする印象があるかもしれません。そんなイメージが強いと、こちらはうれしい驚きの連続でしょう。シェフの門脇稔さんのセンスがすばらしいのです。
それを知ってから、お邪魔するときは食べたいものを1つか2つ決めておき、予算を伝えて、あとはお任せコース。お酒代込みで、いつも1万円以内ですから、CP抜群。
たとえば先日は、馬肉のサラミとカラスミからスタート。それぞれおなじみのメニューでも、肉は馬肉で、カラスミはサルデーニャ産。どちらも塩味がほどよく、白ワインにピッタリ。「次は何かな」と期待を抱かせます。
「牛もも肉のブレザオラをお持ちしました」と門脇さん。ブレザオラは塩漬けのこと。生でもおいしいのですが、生の提供が禁止され、こちらになったそうです。
で、上に添えられていたのが何とサマートリュフが惜しげもなく! フォークで口に運ぶと、いい香りで肉のウマ味と一体化します。その肉の塩加減もまた絶妙、サイコーです。
「トリュフは国産なんですが、産地はナイショ」
繊細な調理法もさることながら、吟味した食材はあちこちから取り寄せています。この時季はジビエも豊富で、契約する猟師さんからイノシシやシカ、アナグマなどが届きます。この日のメインのビステッカは福岡・糸島のイノシシで、リゾットに用いたのは岡山・美作のシカでした。
「ウチが仕入れるジビエは、魚で行われる神経締めのような手法できちんと処理されているので、臭みはまったくありませんよ」
前菜の盛り合わせは見栄えもバッチリ!
リゾットのチーズの加減もほどよく、歯ごたえのあるシカ肉に見事にマッチします。
イノシシのビステッカは火入れが抜群で、周りはカリッと香ばしく、中心はしっとりと。ナイフを引く圧力はジビエならではの力強さがあるのに、口に入れると、ほどよい食感です。塩加減がちょうどよく、赤ワインにとても合います。
「僕が修業したイタリアのトリノは北部にあり、今はニンニクをほとんど使いません。素材のよさを引き出す料理が多い。だから、ウチも旬を大事にしています」
門脇さんの料理は、見た目も味もイタリアンですが、繊細な技術で素材のよさを引き出す調理は和食に近い。しかも食材の目利きのよさがあるので、安心して食事ができるのです。
3皿目に登場する前菜の盛り合わせは、7種類の豪華版で見栄えもバッチリ。生ハムやパプリカなど定番に交ざり、白子がさりげなく見えたり、そのわきにハンバーグがあったり。ニンジンのラペは、オレンジが爽やかに香ります。まさにイタリアンの和食!
バジルより香りで勝る絶品セロリペースト
こうしたコースの中に“ぜひ”とお願いしたのがパスタで、セロリペーストのスパゲティです。ペコリーノチーズや松の実、オリーブオイルなどと一緒にミキサーにかけるので、基本はジェノベーゼと同じですが、香りはセロリの方が勝っています。
ホクホクとしたゆり根の食感もいい。セロリが旬のこの時季は、毎月食べたくなります。
聞けば、茎はバーニャカウダやダシで使う一方、葉は残る。そんな葉の有効活用で生まれたそうです。門脇オリジナルをぜひ!
(取材協力・キイストン)
■オステリア クロチェッタ
東京都新宿区四谷三栄町14-5 ℡03・6457・7171
▽霞町三〇一ノ一
東京・西麻布のビル3階にある和食店。暗証番号を入力して入るスタイルは隠れ家風だが、渡辺さんはじめスタッフは笑顔を絶やさず落ち着いて食事ができる。旬の食材と銘酒のマリアージュが評判に。
東京都港区西麻布2-12-5 MISTY西麻布3階
℡03・6805・3227
▽渡辺ひと美(わたなべ・ひとみ)
フリーアナウンサー。食べ歩きや蔵元巡りを重ねた経験を生かし、利き酒師としても活躍。飲食店のプロデュースやコンサルタントも行い、自ら手掛けた和食店「霞町三〇一ノ一」は今年15周年を迎えた。