「霞町三○一ノ一」渡辺ひと美さんの巻<4>
鮨からく(東京・銀座)
こちらは、東京・銀座で32年続くお寿司屋さん。お邪魔するようになって20年になります。丁寧な仕込みで熟成された江戸前寿司のおいしさはもちろん、ワインとのマリアージュが素晴らしい。
「ウチのかんぴょうは、赤ワインに合う」
12年前、ご主人の戸川さんがそれに気づいたことで、ワインの研究を進め、ソムリエの資格まで取得。それまでの江戸前寿司と日本酒の王道スタイルを一変され、江戸前寿司とワインのマリアージュを見事に表現されています。
かんぴょうは、醤油とみりん、砂糖で味をのせますから和食の典型的な味つけ。「それが赤ワインに合うなら、江戸前寿司に合うワインも必ずある」というわけです。江戸前寿司のスタイルは崩さず、研究を重ねて合うワインを探してきます。その熱意でそろえたワインが絶品で、しかもワインとのペアリングコースがとても安い。
■老舗フレンチのような押し付けがないのも人気
たとえば、先日、ランチでお邪魔したときは、1杯目がシャンパーニュで、キャビアをのせたスミイカの握り、牡蠣の卵とじとのマッチング。「このシャンパーニュはウマ味とミネラル、30カ月熟成から生じる複雑さが特徴で、キャビアの塩味に同調し、牡蠣のウマ味に同調します。まず飲んでから、それぞれ召し上がってみてください」と戸川さん。
実は、スミイカは湯通しで水分を抜き、甘味を引き出す江戸前仕事が施されています。握りをいただく前と後では、シャンパーニュの味わいがまろやかに調和するのです。
私はマリアージュに興味津々で、説明をうかがいますが、通常は「はいどうぞ」で、ご主人のウンチクはありません。口に含んでからの変化に驚き、皆さん、「おいしいですね。どうして」と尋ねると、秘密を簡単に教えてくれます。老舗フレンチのような押し付けがなく、カウンターの常連サンは皆、気楽に食事されています。それも人気の秘密です。
「魚介類は意外と赤が合います」
次は、タイの握り3種と、カニとトマトのミルフィーユで、白ワインに合わせます。タイは、生と昆布締め、そしてゴマ醤油漬けで、生から順にシャルドネとのマッチングです。カニとトマトとの相性は想像がつきましたが、驚きは昆布締めとゴマ醤油漬けの相性のよさでした。
「これがペアリングの妙なんですね」
私がうれしそうにいただくので、戸川さんもうれしそうですが、意外な一言が。
「魚介類と合わせるのは白ワインが定番ですが、必ずしもそうじゃありません。特にどこの店にも置いてあるシャブリは、たとえばアジなんかと合わせるのが難しい。赤ワインだと、生臭く感じることもありませんよ」
そういって出してくださったのが、エビとイカのバジル和え、そしてマグロです。マグロは漬けと中トロ、トロたくの鉄火巻き。おっしゃる通り! ピノノワールがバジルやマグロとよく合います。ノリがまた絶妙なハーモニーで。
ランチのワインペアリング1万1000円は破格
全開の戸川ワールドは、穴子とウナギでお開きに。「甘じょっぱいタレは、熟成された甘いワインに合いますよ」とポルトガルのマデイラワインが、ふっくらとした穴子とウナギを見事に昇華させるのでした。
ランチのペアリングは締めて1万1000円。めちゃくちゃオトク。常連さんがほかのお寿司屋さんに見向きもしないのが納得でしょう。
(取材協力・キイストン)
■鮨からく
東京都中央区銀座5-6-16 西五番館ビルB1
℡03.3571.2250
▽霞町三〇一ノ一
東京・西麻布のビル3階にある和食店。暗証番号を入力して入るスタイルは隠れ家風だが、渡辺さんはじめスタッフは笑顔を絶やさず落ち着いて食事ができる。旬の食材と銘酒のマリアージュが評判に。
東京都港区西麻布2-12-5 MISTY西麻布3階
℡03.6805.3227
▽渡辺ひと美(わたなべ・ひとみ)
フリーアナウンサー。食べ歩きや蔵元巡りを重ねた経験を生かし、利き酒師としても活躍。飲食店のプロデュースやコンサルタントも行い、自ら手掛けた和食店「霞町三〇一ノ一」は今年15周年を迎えた。