アナキズム研究者が説く「サボるコツ」「我慢しない生き方」 “正気の狂人”大杉栄に学べ

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「『働かざる者、食うべからず』なんてクソくらえ!」──。こう気炎を上げるのがアナキズム研究者の栗原康だ。座右の銘は「働かないで、たらふく食べたい」。大正時代のアナキスト・大杉栄を敬愛してやまない高学歴“非ワーキング”プアである。人が有用性や生産性で測られてしまう資本主義社会において、労働をサボるコツとは何か。見えてきたのは、我慢しない生き方だ。

■年収10万円、彼女からも痛烈“ダメ出し”

 定期収入は大学の非常勤講師の授業のみ。前期は週1回、後期は週2回をこなすが、年収は200万円ほどだ。

「今のような生活になったのは成り行きですね。真面目に大学院に行って、大学教員に就職しようと考えていたんですけど、自分のやりたいことと、大学院の師匠が求めていたものが合わなかった。『アナキズムや暴力的な思想は書かせられない』などと言われたんです。その時、ある出版社の社長さんから『この際、好きなことを書いちゃいませんか』と声をかけていただき、就職のためにやりたいことは我慢しなきゃと思っていた自分が吹っ切れた。それがキッカケで出したのが『大杉栄伝 永遠のアナキズム』でした」

「大杉栄伝」を上梓する前、年収は10万円。結婚を考えていた彼女から「仕事なんていくらでもあるのに、やりたいことしかやろうとしないのは、わがままな子供が駄々をこねているようなものだ」と、痛烈な“ダメ出し”を食らうこともあったという。結果は破局だ。

「文字通り、そのまま言われました(笑)。今の世の中、カネを稼ぐのは当たり前で、たくさん稼げるやつがスゴイと言われます。小学生ぐらいから『将来を意識して計算して生きろ』などと叩き込まれ、『きちんと働かないやつはロクでなし』だと刷り込まれる。でも大杉に言わせれば、国家や社会のために役立つのが良いことだとか、こう生きるべきだとか、初めから決まりはない。人間の生きる力は自由だと。周りの評価に関係なく、自己の尊厳や偉大さは自分自身で掴むという発想なんです」

大事なのは「俺、エライ!」の開き直り

 自己に対する絶対評価に徹した大杉も、エリートコースから脱落する挫折を味わった。

「彼は父親が職業軍人で、小さいころから軍人になるために育てられた。陸軍のトップエリートを養成する陸軍幼年学校に行ったのですが、吃音のせいで上官にイジメられた。軍人は模範的な国民として国語をハキハキ話せないといけなかったから、ドモるたびに母親からも叩かれていた。結局、友人とケンカして退学処分をくらうのですが、それでも彼の吃音は治らなかったし、むしろ治さなかった。吃音で表現して何が悪いんだと。語学が非常に得意だったから、逆に『俺は世界中の言語でドモってやる』とまで開き直ったんです。大杉の生き方は突き詰めれば、本人がやりたいことをやって『俺、エライ!』『私、スゴイ!』と言っているだけなのですが、周りの評価にさらされるプレッシャーが強まっている今こそ、大杉のような開き直りが必要なのかなと思います」

■訳の分からない出会いに身を任せてみる

 徹底した自己肯定は、考える間もなく体が動いてしまう「自発性」の尊重にもつながる。

「『自発性』は別に難しいことではなく、例えばゴールデン街で飲みたくなって行っちゃったとか。道で誰かが倒れていたから、後先考えずに助けちゃうとか。労働は基本的に利益を上げるために予測可能なものをつくり出していますよね。売れそうなものを作れ、ムダを削げと。そうした労働に支配された自分自身を『自発性』でブチ壊し、訳の分からない出会いに身を任せることが労働から逃げるテクニックのひとつだと思います。ムダかどうかを考える間もなく、やっちゃう。高田純次さんは発言の全てがムダって時がありますよね(笑)。大好きです。高田純次、サイコー!」

▽栗原康(くりはら・やすし) 1979年、埼玉県生まれ。早大大学院政治学研究科・博士後期課程満期退学。東北芸術工科大非常勤講師。著書「大杉栄伝 永遠のアナキズム」で第5回「いける本」大賞受賞。他に「はたらかないで、たらふく食べたい」(ちくま文庫)、「サボる哲学:労働の未来から逃散せよ」(NHK出版新書)など。「麦とホップ(黒)」を愛飲。

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